海外文学読書録

書評と感想

2018-01-01から1年間の記事一覧

ミランダ・ジュライ『最初の悪い男』(2015)

最初の悪い男 (新潮クレスト・ブックス) 作者: ミランダジュライ,Miranda July,岸本佐知子 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2018/08/24 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (1件) を見る ★★★ 43歳独身のシェリルは、護身術エクササイズのDVDを販売するN…

トム・ハンクス『変わったタイプ』(2017)

変わったタイプ (新潮クレスト・ブックス) 作者:ハンクス,トム 新潮社 Amazon ★★★ 短編集。「へとへとの三週間」、「クリスマス・イヴ、一九五三年」、「光の街のジャンケット」、「ハンク・フィセイの『わが町トゥデイ』――印刷室の言えない噂」、「ようこそ…

王聡威『ここにいる』(2016)

ここにいる (エクス・リブリス) 作者:王聡威 白水社 Amazon ★★★ 夫のDVを受けた美君は6歳の娘・小娟を連れて家出し、知人の所持するマンションの部屋に移り住む。美君は自身の過去と現在、さらには関わってきた人たちについて語り、周囲の人物もまた美君につ…

ウーヴェ・ティム『ぼくの兄の場合』(2003)

ぼくの兄の場合 (エクス・リブリス) 作者:ウーヴェ・ティム 白水社 Amazon ★★★ ウーヴェよりも16歳年上の兄カール・ハインツは、ヒトラーユーゲントで教育を受け、武装親衛隊のエリート部隊である髑髏師団に入隊する。ところが、彼はロシア戦線で戦死するの…

甘耀明『冬将軍が来た夏』(2017)

冬将軍が来た夏 作者:甘耀明 白水社 Amazon ★★★ セレブの幼稚園で教諭をしている「私」の元に、死んだはずの祖母からトランクや机といった大量の荷物が送られてきた。その3日後、「私」は飲んだ帰りに自宅で園長の息子にレイプされる。死んだはずの祖母はト…

エドウィージ・ダンティカ『愛するものたちへ、別れのとき』(2007)

愛するものたちへ、別れのとき 作者:エドウィージ・ダンティカ,Edwidge Danticat 作品社 Amazon ★★★★ 2004年。35歳のエドウィージ・ダンティカは妊娠していた。一方、彼女の父親は69歳、肺病に罹って死にかけている。エドウィージは幼少期に伯父と祖国のハイ…

ジョージ・ソーンダーズ『リンカーンとさまよえる霊魂たち』(2017)

リンカーンとさまよえる霊魂たち 作者:ジョージ・ソーンダーズ 河出書房新社 Amazon ★★★★ 1862年。南北戦争の最中、リンカーン大統領の息子ウィリーが急逝する。ウィリーは防腐処理を施されて墓地に葬られたが、そこには自分の死を受け入れられない霊魂たち…

エイモス・チュツオーラ『文無し男と絶叫女と罵り男の物語』(1987)

文無し男と絶叫女と罵り男の物語 作者:エイモス チュツオーラ トレヴィル Amazon ★★★ 二千年前のナイジェリア西部に存在したラケツ・タウン。そこの王は予言によって宮殿から息子を追い出し、息子は文無し男と渾名される。さらに、副王は予言によって家から…

韓邦慶『海上花列伝』(1894)

中国古典文学大系 (49) 作者: 韓邦慶,太田辰夫 出版社/メーカー: 平凡社 発売日: 1969/05/01 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (1件) を見る ★★★ 清朝末期。17歳の趙樸斎が、友人の張小村と共に職を求めて上海にやってくる。趙樸斎はおじの洪善卿に連…

カルロス・フエンテス『聖域』(1967)

聖域 (ラテンアメリカ文学叢書) 作者:カルロス・フエンテス,木村栄一 国書刊行会 Amazon ★★★ 父親のもとで暮らしていたギリェルモは、母親にしてメキシコの大女優であるクラウディア・ネルボに引き取られる。青年になったギリェルモは母親への愛情を募らせつ…

ジョン・アップダイク『結婚しよう』(1976)

結婚しよう (新潮文庫) 作者:岩元 巌,ジョン アップダイク,John Updike 新潮社 Amazon ★★★★ コネティカット州グリーンウッド。所帯持ちのジェリー・コウナントが、近所の人妻サリー・マサイアスと不倫する。ジェリーはテレビのコマーシャル専門のアニメーシ…

ドン・デリーロ『ホワイト・ノイズ』(1985)

ホワイト・ノイズ 作者:ドン・デリーロ,森川 展男,Don Delillo 集英社 Amazon ★★★★ 大学教授のジャック・グラドニーは、ヒトラー学科を創設した人物。彼は妻のバベットとそれぞれの連れ子4人と暮らしている。あるとき、バベットが奇妙な薬を飲んでいることが…

ジュリアン・バーンズ『太陽をみつめて』(1986)

太陽をみつめて (新しいイギリスの小説) 作者:ジュリアン バーンズ 白水社 Amazon ★★★ 1941年6月。戦闘機パイロットのトマス・プロッサーが、ドーヴァーの上空で太陽が2度昇るのを目撃する。そのことを本人から聞かされた17歳のジーン・サージャントは、空へ…

ジャネット・ウィンターソン『さくらんぼの性は』(1989)

さくらんぼの性は (白水Uブックス―海外小説の誘惑) 作者:ジャネット ウィンターソン 白水社 Amazon ★★★★ 17世紀半ばのロンドン。象を吹き飛ばし、オレンジを12個頬張ることができる巨漢の犬女が、テムズ川の泥の中で赤ん坊を拾い、ジョーダンと名付けて育て…

ロレンス・ダレル『セルビアの白鷲』(1957)

セルビアの白鷲 (文学のおくりもの 4) 作者:ロレンス・ダレル 晶文社 Amazon ★★ ユーゴスラビア南東部の山中で、英国大使館の職員が何者かに殺された。現地ではセルビア王党派の白鷲隊が、チトー政権を転覆させようと画策している。英国諜報員のメシュインは…

ブルース・チャトウィン『ウッツ男爵』(1988)

ウッツ男爵: ある蒐集家の物語 (白水uブックス―海外小説永遠の本棚) 作者:ブルース チャトウィン 白水社 Amazon ★★★ 1967年――プラハの春の前年――、語り手の「私」が取材のために一週間プラハに滞在する。彼はそこでマイセン磁器の蒐集家カスパール・ヨアヒム…

馮夢竜『平妖伝』(1620)

中国古典文学大系 (36) 作者:馮 夢竜 平凡社 Amazon ★★★ 宋の仁宗の時代。老婆の姿をした狐の聖姑姑が、滞在先の華陰県で蛋子和尚と出会う。和尚は卵から生まれた僧侶で、白雲洞の石壁から秘冊『如意冊』を写し取っていた。『如意冊』は春秋時代に白猿の化身…

デイヴィッド・ロッジ『考える…』(2001)

考える… 作者:デイヴィッド ロッジ 白水社 Amazon ★★★ イギリスの田園地帯にあるグロスター大学。そこの認知科学センターの所長にしてタレント教授でもあるラルフ・メッセンジャーは、女たらしのヤリチン男だった。彼は人間の意識について研究しており、自分…

エイモス・チュツオーラ『甲羅男にカブト虫女』(1990)

甲羅男にカブト虫女 作者:エイモス チュツオーラ 筑摩書房 Amazon ★★★★ 短編集。「甲羅男カメのものがたり」、「カメの女房、ヤンリボのものがたり」、「村のまじない医」、「アジャオと跳ねる骨」、「悪をもって、悪に報いるなかれ」、「アカンケとやっかみ…

イアン・マキューアン『憂鬱な10か月』(2016)

憂鬱な10か月 (新潮クレスト・ブックス) 作者:マキューアン,イアン 新潮社 Amazon ★★★★ 胎児の「わたし」が母親の腹の中で外界の様子を探る。どうやら母親のトゥルーディは父親と別れ、彼の弟クロードと愛人関係にあるようだった。しかも、2人は共謀して父親…

リチャード・フラナガン『奥のほそ道』(2013)

奥のほそ道 作者:リチャード・フラナガン 発売日: 2018/05/26 メディア: 単行本 ★★★ 1915年頃にタスマニアで生まれたドリゴ・エヴァンスは、本土の大学で勉強して外科医になり、第二次世界大戦では将官として従軍することになった。ところが、彼は日本軍の捕…

セオドア・ドライサー『アメリカの悲劇』(1925)

アメリカの悲劇(上) (新潮文庫 赤) 作者:シオドア・ドライサー 新潮社 Amazon ★★★ 貧しい伝道師の家庭で育ったクライド・グリフィスは、長じてからカンザスシティでホテルのベルボーイになる。ところが、同僚とドライブに行った帰りに自動車事故を起こして逃…

ウィリアム・シェイクスピア『タイタス・アンドロニカス』(1590?)

シェイクスピア全集 12 タイタス・アンドロニカス (ちくま文庫) 作者:ウィリアム・シェイクスピア 筑摩書房 Amazon ★★★★ ローマ帝国の将軍タイタス・アンドロニカスが、ゴート族との戦争に勝利して首都に凱旋する。彼は捕虜にしたゴート人の女王タモーラの長…

『ギルガメシュ叙事詩』(1200BC?)

ギルガメシュ叙事詩 (ちくま学芸文庫) 筑摩書房 Amazon ★★★ ウルクの王ギルガメシュは暴君として都城に君臨していた。ウルクの住民が神々に彼の非道を訴えると、大地の女神アルルが粘土からエンキドゥというの名の猛者を造り、都城から少し離れた野に解き放…

ジェームズ・ロバートソン『ギデオン・マック牧師の数奇な生涯』(2006)

ギデオン・マック牧師の数奇な生涯 (海外文学セレクション) 作者:ジェームズ・ロバートソン 東京創元社 Amazon ★★★ スコットランドの出版社にギデオン・マック牧師の手記が持ち込まれる。そこには彼の生い立ちのほか、突如森の中に出現した巨大な立石や、洞…

ソール・ベロー『ラヴェルスタイン』(2000)

ラヴェルスタイン 作者:ベロー,ソール 彩流社 Amazon ★★★★ 政治哲学の教授エイヴ・ラヴェルスタインは、著書が世界中でベストセラーになった大金持ちだった。彼はユダヤ人であり、男を愛する自称「性倒錯者」でもある。ラヴェルスタインの友人で作家のチック…

ハ・ジン『待ち暮らし』(1999)

待ち暮らし (ハヤカワ・ノヴェルズ) 作者:ハ ジン 早川書房 Amazon ★★★★ 軍医の孔林は妻の淑玉と離婚すべく、毎年夏に帰省して妻と人民法院に通っていた。ところが、当初は離婚に同意していた妻も土壇場で考えを翻して離婚できない。林は早く妻と別れて看護…

セース・ノーテボーム『儀式』(1980)

儀式 作者:セース・ノーテボーム 論創社 Amazon ★★★★ 舞台はアムステルダム。1963年。30歳のインニ・ウィントロップは、愛する女ジータに逃げられ首吊り自殺を図る。しかし、彼の自殺は未遂に終わるのだった。1953年。インニは叔母の元恋人であるアーノルト…

李永平『吉陵鎮ものがたり』(1986)

吉陵鎮ものがたり (台湾熱帯文学) 作者:李 永平 人文書院 Amazon ★★★ 連作短編集。「万福巷」、「天気雨」、「赤天謡」、「人生風情」、「灯り」、「十一のおっかさん」、「蛇の呪い」、「降りしきる春雨」、「荒城の夜」、「大水」、「思慕」、「地に降りそ…

P・G・ウッドハウス『感謝だ、ジーヴス』(1971)

感謝だ、ジーヴス (ウッドハウス・コレクション) 作者:P・G・ウッドハウス 発売日: 2011/07/25 メディア: 単行本 ★★★ バーティーの親友ジンジャーがダリア叔母さんの住むマーケット・スノッズベリーで下院補欠選挙に出馬したため、バーティーとジーヴスが彼…