海外文学読書録

書評と感想

2017-01-01から1年間の記事一覧

ホメロス『オデュッセイア』(750BC?)

ホメロス オデュッセイア 上 (岩波文庫) 作者:松平 千秋 岩波書店 Amazon ★★★ トロイア落城から10年。イタケーの領主オデュッセウスは、漂流先のカリュプソーの島に抑留されていた。その間オデュッセウスの屋敷には、妻のペーネロペイアの元に求婚者たちが押…

2017年に読んだ266冊から星5の12冊を紹介

このブログでは原則的に海外文学しか扱ってないが、実は日本文学やノンフィクションも陰でそこそこ読んでおり、それらを読書メーターに登録している。 今回、2017年に読んだすべての本から、最高点(星5)を付けた本をピックアップすることにした。読書の参…

レアード・ハント『ネバーホーム』(2014)

ネバーホーム 作者:レアード・ハント 発売日: 2017/12/07 メディア: 単行本 ★★★ 南北戦争。インディアナ州で夫と農場を経営するコンスタンス・トムソンは、夫のバーソロミューの体が弱いため、彼に代わってオハイオ州の北軍に入隊する。コンスタンスはアッシ…

陳浩基『13・67』(2014)

13・67 上 (文春文庫) 作者:陳 浩基 文藝春秋 Amazon ★★★★★ 連作短編集。「黒と白のあいだの真実」、「任侠のジレンマ」、「クワンのいちばん長い日」、「テミスの天秤」、「借りた場所に」、「借りた時間に」の6編。 ――覚えておけ! 警察官たるものの真の任…

コルム・トビーン『ノーラ・ウェブスター』(2014)

ノーラ・ウェブスター (新潮クレスト・ブックス) 作者:コルム・トビーン 新潮社 Amazon ★★★★ ウェックスフォード州エニスコーシー。46歳のノーラ・ウェブスターは、教師だった夫モーリスを亡くて経済的に困窮し、クッシェにあるもう一つの家を売却する。ノー…

フィリップ・ロス『素晴らしいアメリカ野球』(1973)

素晴らしいアメリカ野球 (新潮文庫) 作者:ロス,フィリップ 新潮社 Amazon ★★★ 第二次世界大戦の最中。大リーグにはアメリカン・リーグとナショナル・リーグの他に愛国リーグが存在していた。そこに所属する球団マンディーズは、ホームスタジアムを持たない根…

コルソン・ホワイトヘッド『地下鉄道』(2016)

地下鉄道 (ハヤカワepi文庫) 作者:コルソン ホワイトヘッド 早川書房 Amazon ★★★ ジョージアのランドル農園。そこで奴隷をしている15歳の黒人少女コーラは、母親の失踪によって周囲から孤立していた。そんななか、シーザーという新入りの奴隷から一緒に逃亡…

フラン・オブライエン『スウィム・トゥー・バーズにて』(1939)

スウィム・トゥー・バーズにて (白水Uブックス) 作者:フラン・オブライエン 白水社 Amazon ★★★★ 大学生の「ぼく」は余暇に小説を書いていた。その主人公トレリスは罪と報いについての小説を構想しており、登場人物を何人か創造して自分と同じホテルに住まわ…

G・K・チェスタトン『木曜日だった男』(1908)

木曜日だった男 一つの悪夢 (光文社古典新訳文庫) 作者:チェスタトン 光文社 Amazon ★★★ 詩人のルシアン・グレゴリーは無政府主義者だった。彼は同じく詩人のガブリエル・サイムと議論をかわし、ひょんなことからサイムを無政府主義中央評議会に連れていくこ…

イアン・マキューアン『甘美なる作戦』(2012)

甘美なる作戦 (新潮クレスト・ブックス) 作者:イアン マキューアン 新潮社 Amazon ★★★ 1970年代初頭。英国国教会主教の娘セリーナは、現代文学が好きな読書家だった。彼女は英文学科を志望するも、親の勧めでケンブリッジ大学の数学科に進学する。そこではあ…

チャン・ジョンイル『コリアン・サラリーマンの秘密の生活』(1994)

コリアン・サラリーマンの秘密の生活 作者:蒋 正一 講談社 Amazon ★★ ソウルのナムソン・グループに勤めるサラリーマンの「彼」。「彼」は家と会社を往復する毎日を送りつつ、余暇には妻とレンタルビデオを見て過ごしていた。「彼」の妻は雑貨屋の長女であり…

グレアム・グリーン『キャプテンと敵』(1988)

キャプテンと敵 作者:グレアム グリーン,宇野 利泰 早川書房 Amazon ★★★ 寄宿学校で学ぶ12歳の少年ヴィクター・バクスター。彼の元にキャプテン*1と称する男がやってくる。キャプテンはヴィクターの父とバックギャモンで賭けをして、その息子を引き取ること…

老舎『四世同堂』(1944-1946)

老舎小説全集 第8巻 四世同堂 上 作者:老舎,芦田孝昭 学研プラス Amazon ★★★ 盧溝橋事件によって戦争が勃発、北平が日本軍に占領される。教師の祁端宣は四世代同居の「四世同堂」の生活を送っていたが、弟の端全が城外に脱出して抗日戦に身を投じたことで、…

ヘラ・S・ハーセ『ウールフ、黒い湖』(1948)

ウールフ、黒い湖 作者:ヘラ・S・ハーセ 作品社 Amazon ★★★ オランダ領東インド(現インドネシア)。白人の少年「ぼく」は、同い年の原住民ウールフと身分を超えて仲良く遊んでいた。「ぼく」の父は農園の支配人であり、ウールフの父はそこの苦力頭である。…

ウィリアム・シェイクスピア『アテネのタイモン』(1606-1607?)

シェイクスピア全集29 アテネのタイモン (ちくま文庫) 作者:シェイクスピア 筑摩書房 Amazon ★★★ アテネの貴族タイモンは莫大な財産を所持しており、それを周囲の人々に惜しみなく与えていた。ところが、実は財政が破綻していたことが判明、金貸しが借金の取…

キルメン・ウリベ『ビルバオ-ニューヨーク-ビルバオ』(2008)

ビルバオ-ニューヨーク-ビルバオ (白水Uブックス) 作者:キルメン・ウリベ 白水社 Amazon ★★★ 「僕」ことキルメン・ウリベは、ニューヨークの大学で講演するため、バスク地方の都市ビルバオから飛行機で旅をする。彼は創作のための情報収集をしていた。画家の…

イサベル・アジェンデ『精霊たちの家』(1982)

精霊たちの家 上 (河出文庫) 作者:アジェンデ,イサベル 河出書房新社 Amazon ★★★★★ デル・バージェ家の末娘クラーラは、念力や予知能力といった超能力を持っていた。彼女は家族の死を予言し、その結果、姉のローサが毒を飲んで死んでしまう。自責の念にから…

『平家物語』(1240?)

平家物語 (池澤夏樹=個人編集 日本文学全集 全30巻) 作者:古川日出男(翻訳) 河出書房新社 Amazon ★★★★★ 治承元年(1177年)。平清盛は権力を笠に着て横暴な振る舞いをしていた。朝廷では平氏が高位の官職を占めており、「平家にあらずんば人にあらず」という…

E・M・フォースター『眺めのいい部屋』(1908)

眺めのいい部屋 (ちくま文庫) 作者:E.M. Forster 筑摩書房 Amazon ★★★★ 裕福な娘ルーシーは、従姉妹のシャーロットと2人でフィレンツェに旅行する。宿泊先の部屋に不満を漏らす2人。それを聞いた青年ジョージと彼の父親エマースン氏が、2人に自分たちが泊ま…

フランソワ・ラブレー『第五の書』(1564)

第五の書 ガルガンチュアとパンタグリュエル5 (ちくま文庫) 作者:フランソワ・ラブレー 筑摩書房 Amazon ★★★ 聖なる酒びんのご宣託を受けるべく航海を続けるパンタグリュエル一行。彼らは教皇鳥や貧欲騎士団長鳥といった奇妙な動物が生息する<鐘の鳴る島>…

賈平凹『土門』(1996)

土門 作者:賈 平凹 中央公論社 Amazon ★★★ 西京の郊外にある仁厚村。若い娘の梅梅(メイメイ)は、婚約者の老冉(ラオラン)がなかなか結婚を申し込んでこないのにやきもきしつつ、アマチュア小説家の范景全(ファンチンチュエン)に師事して通信教育を受け…

アベ・プレヴォー『マノン・レスコー』(1731)

マノン・レスコー (光文社古典新訳文庫) 作者:プレヴォ 光文社 Amazon ★★★ 17歳で哲学の学業を終了したグリュウは、遊学先のアミアンでマノン・レスコーという名の少女と出会う。マノンは修道院に送られるところだった。彼女に惚れたグリュウは一緒にパリへ…

ボリス・ヴィアン『うたかたの日々』(1947)

うたかたの日々 (光文社古典新訳文庫) 作者:ヴィアン,野崎 歓 光文社 Amazon ★★★ 有閑階級の青年コランは、パーティーでクロエという名の女性と出会ってデートする。やがて結婚した2人だったが、クロエが胸の病気に冒されるのだった。医者の検査によると、肺…

E・M・フォースター『インドへの道』(1924)

インドへの道 (河出文庫 フ 21-1) 作者:E・M・フォースター 河出書房新社 Amazon ★★★ インドの町チャンドラポア。イスラム教徒のインド人アジズは、医師としてイギリス人大佐の元で働いていた。大佐はインド人を見下してアジズを冷たくあしらっている。一方…

キルメン・ウリベ『ムシェ 小さな英雄の物語』(2012)

ムシェ 小さな英雄の物語 (エクス・リブリス) 作者:キルメン・ウリベ 白水社 Amazon ★★★ 1937年。ベルギーの文学青年ロベール・ムシュの一家が、スペイン内戦下のバスクから疎開してきた少女カルメンチュを引き取る。ロベールは高校を卒業後、経済的な理由か…

ハン・ガン『ギリシャ語の時間』(2011)

ギリシャ語の時間 (韓国文学のオクリモノ) 作者:ガン, ハン 晶文社 Amazon ★★★★ 視力が失われつつある男は、カルチャースクールで古典ギリシャ語を教えていた。一方、言葉が話せなくなった女は、失われた言葉を取り戻すべく彼の講座に通っている。女は16歳の…

ジョナサン・リテル『慈しみの女神たち』(2006)

慈しみの女神たち 上 作者:ジョナサン・リテル 集英社 Amazon ★★★★ ナチス・ドイツ時代に法律家・保安部の役人・SS将校を勤め、戦後はフランスでレース工場の支配人になったマクシミリアン・アウエ。その彼が戦時中を回想する。法学博士にしてSS中尉の彼は、…

フラン・オブライエン『第三の警官』(1967)

第三の警官 (白水Uブックス/海外小説 永遠の本棚) 作者:フラン オブライエン 白水社 Amazon ★★★★ 若くして両親を亡くした「ぼく」は、仕事を雇人であるジョン・ディヴィニィに任せて自分は研究生活を送っていた。2人は同じベッドで寝るほど親密になっている…

マーク・Z・ダニエレブスキー『紙葉の家』(2000)

紙葉の家 作者:マーク・Z. ダニエレブスキー ソニーマガジンズ Amazon ★★★★ (1) 『紙葉の家』序文。盲目の老人ザンパノが急死する。彼の部屋にはドキュメンタリー映像『ネイヴィッドソン記録』についての原稿があった。ジョニー・トルーアントがそれに注釈を…

蘇童『河・岸』(2009)

河・岸 (エクス・リブリス) 作者:蘇 童 白水社 Amazon ★★★ 江南の町・油坊鎮。庫東亮の父・庫文軒は、革命で犠牲になった女性烈士の息子として地元の指導者になっていた。ところが、調査によってその血筋が誤りであるとされ、庫文軒は階級の異分子として失脚…