海外文学読書録

書評と感想

2017-01-01から1年間の記事一覧

チャン・ジョンイル『LIES/嘘』(1996)

LIES/嘘 作者:蒋 正一 講談社 Amazon ★★★★ 38歳のJは元彫刻家で、現在はソウルで無為徒食の生活を送っていた。彼にはパリに留学している妻がいる。Jは知人の伝手で知り合った女子高生Yと安東市で会い、ラブホテルでセックスをする。彼女は処女だった。その後…

イレーヌ・ネミロフスキー『フランス組曲』(2004)

フランス組曲 作者: イレーヌネミロフスキー,野崎歓,平岡敦 出版社/メーカー: 白水社 発売日: 2012/10/25 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (5件) を見る ★★★★ (1) 「六月の嵐」。1940年初夏。パリにドイツ軍が進攻してくる。ブルジョワの一家や著名な…

スティーヴ・エリクソン『きみを夢みて』(2012)

きみを夢みて (ちくま文庫 え 18-1) 作者:スティーヴ エリクソン 筑摩書房 Amazon ★★★ バラク・オバマが大統領に当選した年のロサンジェルス。作家のザンと妻のヴィヴは、19ヶ月前にエチオピアの孤児院から幼い娘シバを引き取って養子にしていた。ザンとヴィ…

エミリオ・ルッス『戦場の一年』(1938)

戦場の一年 (白水uブックス―海外小説の誘惑) 作者:エミリオ ルッス 白水社 Amazon ★★★★★ 第一次世界大戦。イタリア軍の中尉である「わたし」は、無能な将軍の指揮のもと、オーストリアとの国境付近で塹壕戦を繰り返していた。迫撃砲と機関銃による攻撃、狙撃…

チゴズィエ・オビオマ『ぼくらが漁師だったころ』(2015)

ぼくらが漁師だったころ 作者:チゴズィエ オビオマ,Chigozie Obioma 早川書房 Amazon ★★★ 1996年のナイジェリア西部アクレ。9歳のベンジャミンと3人の兄たち(イケンナ、ボジャ、オベンベ)は、近所の川で魚を釣ることに熱中する。しかしその後、長男のイケ…

グレアム・グリーン『情事の終り』(1951)

情事の終り (新潮文庫) 作者: グレアムグリーン,Graham Greene,上岡伸雄 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2014/04/28 メディア: 文庫 この商品を含むブログ (6件) を見る ★★★ 1946年。高級官吏のヘンリは、妻のサラァが他の男と不倫しているかもしれないと…

E・M・フォースター『ハワーズ・エンド』(1910)

ハワーズ・エンド (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-7) 作者:E・M・フォースター 河出書房新社 Amazon ★★★ シュレーゲル家の長女マーガレットは、妹ヘレンがウィルコックス家に出入りしたことをきっかけに、ウィルコックス夫人と懇意になる。ところが、間…

遅子建『アルグン川の右岸』(2006)

アルグン川の右岸 (エクス・リブリス) 作者:遅 子建 白水社 Amazon ★★★★ 90歳の「私」はアルグン川の右岸に住むエヴェンキ族の女で、エヴェンキ族最後の酋長の妻だった。その彼女が一族の過去を物語る。エヴェンキ族はトナカイと共に暮らす狩猟民族だったが…

グレアム・グリーン『ヒューマン・ファクター』(1978)

ヒューマン・ファクター―グレアム・グリーン・セレクション (ハヤカワepi文庫) 作者: グレアムグリーン,Graham Greene,加賀山卓朗 出版社/メーカー: 早川書房 発売日: 2006/10/12 メディア: 文庫 購入: 1人 クリック: 35回 この商品を含むブログ (42件) を見…

フィリップ・ロス『乳房になった男』(1972)

乳房になった男 (1978年) (集英社文庫) 作者:フィリップ・ロス Amazon ★★★ 38歳の文学教授デイヴィッド・ケペシュは、体に些細な症状が出た後、全身が女性の乳房になってしまう。彼は目が見えず、物が食べられず、匂いを嗅ぐことができない。入院して静脈注…

リチャード・パワーズ『オルフェオ』(2014)

オルフェオ 作者:リチャード パワーズ 新潮社 Amazon ★★★★ アメリカ同時多発テロから10年後。70歳の音楽家ピーター・エルズは、仕事を引退して趣味で細菌の遺伝子操作をしていた。目的は、音楽ファイルを生きた細胞に入れること。ところが、飼い犬の死をきっ…

ハビエル・セルカス『サラミスの兵士たち』(2001)

サラミスの兵士たち 作者:ハビエル セルカス 河出書房新社 Amazon ★★★★ 新聞記者のハビエル・セルカスは、かつて小説家になろうとして挫折していた。その彼が、60年前にカタルーニャで起きたスペイン内戦末期の集団銃殺について調べることになる。1939年、フ…

董若雨『鏡の国の孫悟空』(1640)

鏡の国の孫悟空 (東洋文庫0700) 作者:董若雨 平凡社 Amazon ★★★ 芭蕉扇を使って火焰山を鎮火させた後の話。一人で托鉢に出かけた孫悟空は、いつの間にか時代が新唐王朝に入っていることに気づく。そこの宮廷で駆山鐸の噂を耳にした悟空は、その所有者である…

ヴィエト・タン・ウェン『シンパサイザー』(2015)

シンパサイザー 上 (ハヤカワ・ミステリ文庫) 作者:ヴィエト タン ウェン 早川書房 Amazon ★★★★ ヴェトナム戦争。サイゴンが陥落し、南ヴェトナムの将校たちはアメリカ西海岸に難民として移り住むことになる。大尉の「私」は表向き将軍に仕えていたが、実は…

『西遊記』(1592,1694)

西遊記(10冊セット) (岩波文庫) 岩波書店 Amazon ★★★ 天宮で乱暴狼藉を働いた孫悟空は、釈迦如来によって五行山の岩に押さえつけられてしまう。500年後、唐の太宗の時代。三蔵は太宗のために天竺まで取経の旅に出ることになった。道中、孫悟空、猪八戒、沙悟…

ジョン・バース『酔いどれ草の仲買人』(1960)

集英社ギャラリー 世界の文学 (18) アメリカ3 その日をつかめ/ビール・ストリートに口あらば/酔いどれ草の仲買人 作者:ソール・ベロー,ジェイムズ・ボールドウィン,ジョン・バース 集英社 Amazon ★★★ 17世紀末葉。裕福な家に生まれたエベニーザー・クックは…

ジェイムズ・ボールドウィン『ビール・ストリートに口あらば』(1974)

集英社ギャラリー 世界の文学 (18) アメリカ3 その日をつかめ/ビール・ストリートに口あらば/酔いどれ草の仲買人 作者:ソール・ベロー,ジェイムズ・ボールドウィン,ジョン・バース 集英社 Amazon ★★★★ ニューヨーク。黒人の青年ファニーは、やってもいない強…

ソール・ベロー『その日をつかめ』(1956)

その日をつかめ (1978年) (集英社文庫) 作者:ソウル・ベロー Amazon ★★★ 元セールスマンのトミー・ウィルヘルムは、失業して父親と同じホテルに宿泊していた。彼は妻と離婚したがっているものの、向こうはそれを望まず、子供の養育費を請求してくる。ウィル…

ニコス・カザンザキス『キリスト最後のこころみ』(1951)

キリスト最後のこころみ 作者:ニコス・カザンザキス 恒文社 Amazon ★★★★ ナザレで大工をしているイエスは、ローマ人のために処刑用の十字架を作っていた。そのことで周囲の人々からは軽蔑されるも、彼にとってその行為は自分をメシヤに選んだ神に対する抵抗…

ミハル・アイヴァス『もうひとつの街』(1993,2005)

もうひとつの街 作者:ミハル・アイヴァス 河出書房新社 Amazon ★★★ 雪の降るプラハ。古書店で「私」は、書名も著者名も記されていない奇妙な本を買う。それはこの世のものではない文字で綴られていた。本の入手を機に、「私」は浮世離れした現実が次々と現れ…

老舎『駱駝祥子』(1936)

駱駝祥子―らくだのシアンツ (岩波文庫) 作者:老 舎 岩波書店 Amazon ★★★★★ 若くして両親を亡くした祥子は、北京に出てきて車夫になる。懸命に働いて遂に自分の車を手に入れるも、精華へ客を乗せていく途中で兵隊に徴発されてしまう。部隊は戦闘に敗北し、祥…

パク・ミンギュ『ピンポン』(2006)

ピンポン (エクス・リブリス) 作者:パク・ミンギュ 白水社 Amazon ★★★★ 中学校で凄惨ないじめを受けている釘とモアイ。2人は原っぱのど真ん中で卓球台を見つける。彼らはそこで卓球をするようになるのだった。一方、2人をいじめていた同級生はある事件を機に…

サマセット・モーム『月と六ペンス』(1919)

月と六ペンス (新潮文庫) 作者:サマセット モーム 新潮社 Amazon ★★★ 作家の「わたし」が画家のストリックランドについて回想する。ロンドンで株式仲買人をしていたストリックランドは、40歳のとき突如として妻子を捨てて出奔する。浮気が原因だろうと考えた…

甘耀明『鬼殺し』(2009)

鬼殺し(上) (EXLIBRIS) 作者:甘耀明 白水社 Amazon ★★★ 日本統治下の台湾。日本軍は真珠湾を奇襲して太平洋戦争に突入した。関牛窩に住む怪力の少年・帕(劉興帕)は、日本陸軍の鬼中佐・鹿野武雄に見初められてその養子になり、鹿野千抜と名乗るようになる…

ジェイムズ・エルロイ『アンダーワールドUSA』(2009)

アンダーワールドUSA 上 作者:ジェイムズ・エルロイ 文藝春秋 Amazon ★★★ 1968年。(1) 元刑事のウェイン・ジュニアは、中米にカジノを建設しようというマフィアの意向を受け、共和党大統領候補のリチャード・ニクソンに裏金を渡しに行く。(2) FBI捜査官の…

20世紀中国文学お勧め100選(20世紀中文小說100強)

最近、現代中国文学に興味があって、Twitterでその旨をつぶやいたところ、当該分野に造詣が深い方から20世紀中文小說100強というページを教えて頂いた。香港の雑誌社によるランキングらしい。このエントリのタイトルは「20世紀中国文学お勧め100選」となって…

呉明益『歩道橋の魔術師』(2011)

歩道橋の魔術師 (河出文庫) 作者:呉明益 河出書房新社 Amazon ★★★★ 短編集。「歩道橋の魔術師」、「九十九階」、「石獅子は覚えている」、「ギラギラと太陽が照りつける道にゾウがいた」、「ギター弾きの恋」、「金魚」、「鳥を飼う」、「唐さんの仕立屋」、…

カリンティ・フェレンツ『エペペ』(1970)

エペペ 作者:カリンティ・フェレンツ 恒文社 Amazon ★★★★ 言語学者のブダイはヘルシンキ行きの飛行機に乗ったつもりが、間違って別の便に乗ってしまい、見知らぬ土地で降ろされてしまう。そこはやたらと行列ができる人口密集都市で、ブダイの知らない謎の言…

賈平凹『廃都』(1993)

廃都〈上〉 作者:賈 平凹 中央公論社 Amazon ★★★★ 1980年代の西京。周敏が人妻の唐宛児を伴って潼関から駆け落ちしてくる。文章で身を立てたい周敏は、教授の孟雲房に大作家の荘之蝶を紹介してもらい、彼に雑誌社の編集部に職を斡旋してもらう。やがて荘之蝶…

ニコス・カザンザキス『その男ゾルバ』(1943)

その男ゾルバ (東欧の文学) 作者:ニコス・カザンザキス 恒文社 Amazon ★★★ 作家の「私」はクレタ島へ向かう船内で、ゾルバという労働者風の男と出会う。ゾルバに島へ一緒に連れていってくれるよう頼まれた「私」は、彼を自分が所有する炭鉱の現場監督に任命…