海外文学読書録

書評と感想

ジョセフ・コシンスキー『トップガン マーヴェリック』(2022/米)

★★★★

30年以上のキャリアを持つマーヴェリック(トム・クルーズ)は将官への昇進を拒み、現在は戦闘機のテストパイロットをしている。彼はトップガンの教官に任命されるのだった。海軍では3週間以内に非同盟国のウラン濃縮プラントを破壊する作戦が予定されており、マーヴェリックはそれに向けて生徒たちを訓練する。彼らの中にはグースの息子ルースター(マイルズ・テラー)がいた。ルースターはある事情からマーヴェリックのことを恨んでいる。

『トップガン』の続編。前作が1986年公開なので36年ぶりである。

やはり36年の間に蓄積された技術革新は大きく、前作よりも映像が圧倒的に良かった。特に空中戦において何が起こっているのか分かりやすくなっているところが目を引く。CGIやVFXによってあり得ないアングルでの撮影が可能になり、映像による説明能力が格段に向上しているのだ。デジタル処理された映像はそんなに不自然ではないし、細かいカット割りもまったく不愉快ではない。最先端のデジタル技術でアナログの壁をやすやすと乗り越えている。空中戦は前作よりもゴージャスになっていて好印象だった。

マーヴェリックは後進に道を譲る立場なのに、最前線で危険な作戦に従事しているのだから驚く。還暦になっても能天気な英雄譚を演じているのはトム・クルーズの人気ゆえだろう。トム・クルーズの見た目は確かに若い。実年齢より10歳ほど下に見える。白い歯が眩しいさわやかなイケオジだ。劇中で彼がビーチで半裸になってアメフトをするシーンがあるが、相変わらずマッチョな体を維持している。とても還暦の体とは思えない。そして、そういう若々しい見た目だからこそ、能天気な英雄譚を演じるのが許されている。年齢を考えたら体力も運動神経も衰えているはずだし、空中戦で若手エリートに勝つなんてことは到底不可能なはずだ。しかし、トム・クルーズなら不可能を可能にしてしまう。そういう説得力がある。年寄りがしゃしゃるなよと言いたくなる反面、彼ならギリギリ許せるかなと思う。

前作との大きな違いはミッションがあるところだろう。非同盟国のウラン濃縮プラントを破壊する。しかも、その難易度は高い。戦闘機のアクションもかなりアクロバティックだ。あんな勝手に領空侵犯したり他国の施設を破壊したりしていいのかと思うが(国際法に触れないのだろうか?)、そもそもアメリカは過去に違法なことを悪びれなくやってきた。相手国から見れば強大なならず者国家である。たとえるなら日本から見たロシアや中国なのだ。我々がアメリカのやっていることに違和感を覚えないのは、日本がアメリカの傘下にあるからである。日米同盟の絆は深い。そういう意味で「こちら側」の映画という感じだった。

印象に残っているシーンは、酒場でマーヴェリックが客に酒を奢らされるシーン。酒場には若い兵士が集まっていて無礼講である。海軍大佐のマーヴェリックでさえここではただのおじさんだった。彼は若い兵士たちから気軽に声をかけられている。酒場は一種のアジールで、階級や年齢による上下関係は一切ない。こういうところが自由の国だと感心した。