海外文学読書録

書評と感想

マーティン・スコセッシ『カジノ』(1995/米)

カジノ (字幕版)

カジノ (字幕版)

  • ロバート・デ・ニーロ
Amazon

★★

ラスベガス。予想屋のエース(ロバート・デ・ニーロ)がマフィアのボスたちからカジノの責任者に抜擢される。組織はエースの護衛に粗暴なニッキー(ジョー・ペシ)を派遣する。2人は幼馴染だった。また、エースはゴージャスなジンジャー(シャロン・ストーン)に一目惚れするが、彼女にはヒモ(ジェームズ・ウッズ)がいる。ヒモはジンジャーにエースの金を掠め取るべく結婚を勧める。

原作はニコラス・ピレッジ『カジノ』【Amazon】。

金の亡者が愚行を繰り広げていて一種の博覧会みたいになっている。裏社会を活写していて勉強になったが、映画としてはだらだらしていてつまらなかった。何より尺が長い。178分(2時間58分)もある。せめて2時間に収めていれば印象も悪くなかっただろう。映画監督は売れっ子になると無駄に長い映画を撮るから良くない。昔はプロデューサーが不要なシーンをカットするのが当たり前だったが、その仕組みは正解だった。監督主導にすると本作みたいな弛緩した映画になってしまう。

際限のない欲望は身を滅ぼす。そういう意味で本作は反面教師になっているし、処世術の何たるかを教えてくれる。確かにアメリカが資本主義の王者になったのは人々の欲望が強大だったからだ。まっとうな業界でまっとうな働きをするのだったらそれでもいいだろう。しかし、裏社会で野心を剥き出しにして突き進むと命に関わることになる。この世界ではマフィアのボスが絶対なのだ。悲しいかな、ボスの意向に反するとあっさり消されてしまう。また、非合法的な分野に足を突っ込んでいるため、FBIも監視の目を光らせている。捕まったら長期刑は覚悟しなければならない。この世界で生きていくにはあらゆる方面を警戒する必要があるのだ。ところが、エースもニッキーもその辺の認識が甘かった。エースは我を張って余計な敵を作ってしまうし、ニッキーも野心が肥大化して暴力行為をエスカレートさせてしまう。すべては金のため。手に入れる額は多ければ多いほどいい。そのような野心が自身の命を危うくするのである。見ているほうとしてはヒヤヒヤすることしきりだった。

エースはプライベートでも問題を抱えていて妻のジンジャーと上手くいかない。ジンジャーは結婚して子供が産まれてもヒモのことを愛していたのだ。彼女はエースのことを愛したことがない。すべてはエースが所有する金目当てである。エースはジンジャーに散々贅沢させるも、ジンジャーの欲望もまた底のないバケツである。彼に感謝することはなかった。それどころか、財産を奪ってヒモのところへ逃げようと躍起である。ゴージャスな見た目のジンジャーは典型的なトロフィーワイフだが、この手の女はせめて愛人に留めておくべきで絶対に結婚してはならない。愛もまた身を滅ぼす要因であり、エースは結婚したことで公私にわたって問題を抱えるようになる。どんなに金があっても人の心は思い通りにできない。金持ちだからといって必ずしも幸せになれるとは限らないのである。

俳優陣ではシャロン・ストーンが素晴らしかった。ぶん殴りたくなるようなクソ女を好演している。一方、ロバート・デ・ニーロとジョー・ペシはいつも通りでもはや味のしないガムだった。彼らはシャロン・ストーンの引き立て役に甘んじている。