海外文学読書録

書評と感想

マーティン・ブレスト『ミッドナイト・ラン』(1988/米)

★★★★

賞金稼ぎのジャック(ロバート・デ・ニーロ)が、会計士のジョナサン(チャールズ・グローディン)をニューヨークからロサンゼルスまで連行する仕事を請け負う。ジョナサンは麻薬王セラノ(デニス・ファリーナ)の金を横領し、慈善事業に寄付していた。難なくジョナサンを見つけたジャックだったが、予定が狂って陸路を旅することになり、FBIやギャング、ライバルの賞金稼ぎに追われる。

みんな大好きバディもの。80年代は映画の暗黒時代として語られがちだけど、こういう痛快な娯楽映画もちらほら作られているので、一概に悪いとは言えない。これより前に流行ったアメリカン・ニューシネマでは、同じバディものでも『俺たちに明日はない』【Amazon】や『真夜中のカーボーイ』【Amazon】といったほろ苦い映画が作られていた。ありていに言えばアンチ・ハッピーエンド。当時はハリウッド映画にとっての思春期だった。それが大人になって成熟して、本作みたいに吹っ切れた映画が流行るようになったのである。我々はとかく暗い映画を評価しがちで、そこには人生の真実があるだとか、深遠な哲学があるだとか、しみじみとした口ぶりで語ってしまう。その結果、ハッピーエンドの娯楽映画を低俗だと見下してしまう。僕も一時期はそういう病に冒されていた。アメリカン・ニューシネマの典型的な信奉者だった。それがいつしか気兼ねなく楽しい映画を消費できるようになったので、歳をとるのも悪くないと思った。

ヘリコプターの尾翼を拳銃で撃って爆発させるシーンや、ライバルの賞金稼ぎを出会うたびに殴るシーンなど、本作は名場面に事欠かない。

そんななか個人的に気に入っているのが、暗い貨物列車のなかでジャックとジョナサンが語り合うシーン。焚き火を前にしてジャックが時計の来歴を打ち明けるのだけど、ここでのやりとりで2人の関係が決定的に変わったことが感じられてとても良かった。それまで同床異夢だったのが、一変して打ち解ける。男同士の共感みたいなものが湧き上がる。こういうのってバディものの醍醐味ではなかろうか。暗闇のなか焚き火を囲んで……というシチュエーションは、古代からの物語の基本でもあるので、2人が打ち解けるシーンにぴったりだと思う。

FBIの黒人捜査官モーズリーがかなりいい味を出していた。演じているのはヤフェット・コットー。調べたら彼はなかなか興味深い人物だった。父親が王族の家系で、カメルーンのドゥアラの皇太子なのだという。さらに、両親がアフリカ系のユダヤ人であり、コット―自身も熱心なユダヤ教徒なのだとか。黒人のユダヤ教徒ってなかなか見ないので、これには軽く驚いた。

それにしても、本作はラストが素晴らしい。旅路を経て結ばれた男同士の友情。映画を観てこんなに清々しい気分になったのも久しぶりだ。やはりハッピーエンドも悪くない。