海外文学読書録

書評と感想

クリストファー・マッカリー『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』(2015/米)

★★★

IMFの諜報員イーサン・ハント(トム・クルーズ)は、謎の犯罪組織「シンジケート」を探っていた。ところが、指令を受けに訪れた場所で捕まってしまう。吊るされて拷問を受けるイーサンだったが、そこをシンジケートの構成員イルサ(レベッカ・ファーガソン)に助けられる。一方、CIA長官(アレック・ボールドウィン)はIMFを解体してイーサンをお尋ね者にするのだった。

『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』の続編。

スパイ小説は東西冷戦が終わってからつまらなくなったけれど、スパイ映画はテクノロジーの発展によって面白くなったと思う。変装用のマスクとか、コンタクトレンズ型のカメラとか、荒唐無稽な小道具が驚くほどの精度で表現されていて、見ていてわくわく感がある。こういうのをできれば子供時代に見たかった。また、敵を国家的組織ではなく、シンジケートにしたところも荒唐無稽である。本来だったら中国やロシアの諜報機関が敵になるはずで、そこは上手く外してきた。特に中国は市場が大きいから敵にできないのだろう。映画にとって興行収入は何よりも大切だから。たとえ国同士仲が悪くても、資本主義においては金がすべてである。太客の気持ちを損ねるわけにはいかない。その反面、本作ではオーストリア首相を敵に暗殺させたり、イギリス首相をヒーローたちが監禁したり、金にならない同盟国にはやりたい放題していて、そのギャップが面白かった。日本もいずれこういう扱いを受けるんじゃないかとヒヤヒヤする。

このシリーズは前作からスパイ映画に寄せてきたような感じで、本作での対人アクションも拳銃が主体である。旧作に登場したマシンガンやロケットランチャーは見る影もない。ここでようやく気づいたのだけど、このシリーズはアメリカ版007を目指しているのではないか。かつてスパイ映画の中心はイギリスだった。MI6こそが西側世界を代表する諜報機関だった。しかし、アメリカ人にとってはそれが面白くないのだろう。イギリスから本場の地位を奪いたい。スパイ映画の分野でもトップに立ちたい。日本に住んでいるとアメリカもイギリスもごっちゃになるから気づきにくいけれど、どうも前作から007への対抗意識が芽生えたような気がする。

それにしても、相変わらずハリウッドのアクション大作はロケーションが素晴らしい。ウィーン、カサブランカ、ロンドンと複数の都市を舞台にするところはさすが金満映画である。特にカサブランカでのカーチェイスは見応えがあった。実際はアメリカ国内で撮影したのだろうけど、あの荒涼とした風景は異国ならではなので新鮮だ。バイクでの追いかけっこが様になっている。

ラスボスの確保の仕方は気が利いていた。やられたことをやり返している。こういう冒頭に回帰する構成は見ていて気持ちがいい。