海外文学読書録

書評と感想

ウィリアム・K・ハワード『無敵艦隊』(1937/英)

★★★

フェリペ二世(レイモンド・マッセイ)が統治するスペインは、無敵艦隊を擁して新世界と旧世界を牛耳っていた。そんななか、エリザベス女王(フローラ・ロブソン)が統治するイギリスは、ドレイク提督を海賊にしてスペイン商船を襲わせている。これが両国の間で外交問題になっていた。一方、海戦に敗れて父を失ったマイケル(ローレンス・オリヴィエ)には許嫁のシンシア(ヴィヴィアン・リー)がおり、彼はスパイとして危険な任務に従事することになる。

エリザベス女王を演じるフローラ・ロブソンの貫禄がすごかった。スペイン大使と謁見するシーンでは内心の不安を隠しながら威厳のある対応をとっているし、無敵艦隊と決戦するシーンでは鎧を着用して兵士たちの前で堂々と演説している。本作では老いと若さが対比されていて、エリザベス女王が老い、マイケルが若さを象徴している。エリザベス女王は表舞台で老練さを発揮する一方、裏では鏡を見て老いた姿を嘆いていて、その光と影が魅力的である。エリザベス女王が威厳を保っていられるのも年の功なのだけど、しかし、その表情には疲れも見え隠れしている。彼女の人生に終幕が迫っているとき、若きマイケルはシンシアと結婚して人生の門出を迎えているわけで、こういった世代交代が重なって歴史が作られているのだと実感する。

イギリス映画だから当然ドラマもイギリス寄りなのだけど、そのわりにマイケルはスペイン人の温情に助けられすぎだと思う。序盤で海戦に負けて捕虜になったとき、敵の提督が父の親友だということで見逃してもらえる。しかし、父は逃してもらえず、異端審問にかけられて火刑に処されてしまう。その後、マイケルはスパイとしてスペイン王宮に潜入するのだけど、ここでも顔見知りの女に庇われ、命からがら脱出することになる。脱出後は小船を指揮して無敵艦隊を殲滅していて、これは恩を仇で返しているようなものである。もちろん、マイケルには父を殺された恨みがあるから、そういうつもりはないのだろう。けれども、スペイン人がマイケルを助けたせいで取り返しのつかない結果になったので、何とも言えない歯痒さがある。やはりどんな事情があっても敵に情けをかけてはいけないのだ。本作にはそういう教訓が込められている。

本作は炎のモチーフが面白かった。前述の通り、マイケルの父は火刑で殺されている。そして、終盤ではマイケルが燃えさかる小船を無敵艦隊に特攻させ、すべてを灰燼と化している。炎によって父を失ったマイケルは、炎によって仇討ちを完遂したのだった。こういうシンメトリーな構成は見ていて美しさを感じる。