海外文学読書録

書評と感想

立川譲『BLUE GIANT』(2023/日)

BLUE GIANT

BLUE GIANT

  • 山田裕貴
Amazon

★★★★

世界一のジャズプレイヤーを目指す宮本大(山田裕貴)が仙台から上京する。彼はサックスを吹いていた。大は故郷の同窓生・玉田(岡山天音)の家に転がり込む。やがてピアニスト・沢辺雪祈(間宮祥太朗)とバンドを組むことに。素人の玉田が志願してドラムを担当する。3人はJASSというバンドを組み、日本最高のステージ「SO BLUE」への出演を目指す。

原作は石塚真一の同名漫画【Amazon】。

10代の輝きをジャズの演奏を通して表現しているところが良かった。大、雪祈、玉田。3人を結びつける動機はストイックかつ情熱的である。世界一のジャズプレイヤーになりたい。日本最高のステージに立ちたい。この3人で演奏をしたい。ロックバンドとは違い、ジャズバンドはすぐに解散する。相手を踏み台にして成り上がっていく。そういったクールさが前提にありながらも、演奏を重ねるうちに3人の絆は深まっていく。今やらなければ後悔する。現在の蜜月はいずれ終わるという意識でバンドに全力投球しているところが眩しかった。思えば、僕が10代の頃は特に打ち込むものもなく、本を読んでバイトをして友達と遊び、ついでに勉強していたくらいである。そこら辺によくいる平凡な大学生だった。だから3人のやっていることには憧れる。一つの物事に時間と労力を注ぎ込む姿に惹かれる。夢に向かってひた走る行動力は若者の特権であり、10代の輝きがとても眩しかった。

原作は漫画だが、音楽を題材にした漫画は映像化によって命が吹き込まれると思う。『けいおん!』や『ぼっち・ざ・ろっく!』【Amazon】、『のだめカンタービレ』【Amazon】など、アニメ化した音楽漫画は枚挙にいとまがない。どれも楽曲や演奏が神がかっており、見ている者を感動の渦に巻き込んでいく。やはり音があるだけで説得力が段違いだ。どんなに言葉を尽くしても、どんなに絵で表現しても、漫画である以上実際の演奏は分からない。ところが、映像作品は音を鳴らすだけでそれがどんなものか一発で分からせてしまう。だから音楽漫画ほどアニメ化と相性がいいものはない。本作の演奏シーンは作画と演奏に迫力があって素晴らしかった。作画は熱量が半端ないし、演奏も個性的で作画に負けてない。世界一を目指すのも伊達ではないと思わせる。

3人の中で素人なのは玉田だけだが、壁にぶち当たるのがキャリア14年の雪祈であるところが面白い。彼は技術力こそトップレベルであるものの、その道のプロに小手先で演奏していると喝破されるのである。ジャズのソロパートは即興だから自分を曝け出すことが要求される。自分を曝け出すゆえにその人に備わっている人間性が演奏に表れる。雪祈がその道のプロに人間性までダメ出しを食らうところが強烈だった。もちろん、徹底的に批判されたからこそ壁を乗り越えたときのカタルシスは最高なのだが、本作はそこから一捻りあるから油断できない。完璧な大よりも、あるいは未完の玉田よりも、大と双璧と思われた雪祈の成長が目を引く。

エンドロール後にエピローグを入れたのは『セッション』との差別化を図るためだろう。本当だったら演奏が終わった瞬間でぶつ切りにしたいが、それだと二番煎じになってしまう。身近に前例があるために最適解を選べないのだ。この辺が後発作品の難しいところである。ともあれ、10代の輝きをジャズの演奏を通して表現しているところは素晴らしかった。