海外文学読書録

書評と感想

アーサー・ルービン『ニューオリンズ』(1947/米)

ニューオリンズ(字幕版)

ニューオリンズ(字幕版)

  • ルイ・ア-ムストロング
Amazon

★★★★

1917年のニューオリンズ。賭博師のニック・デュケーヌ(アルトゥーロ・デ・コルドヴァ)は、ストーリーヴィルのベイスン通りで酒場を開いていた。そこではサッチモ率いる楽団がラグタイムを演奏している。資産家の娘にしてオペラ歌手のミラリー・スミス(ドロシー・パトリック)は、新しい音楽であるラグタイムに惹かれる。ところが、酒場は海軍の浄化作戦によって閉店、ニックたちはシカゴへ移住する。

ジャズ誕生秘話みたいな映画だけど、このストーリーが史実通りなのかはよく分からない。というか、たぶん違うと思う。少なくとも、ジャズの語源が「Just it Up」でないことは確かなようだ。

サッチモ『グレン・ミラー物語』にも本人役で出演していたけれど、やはり彼は芸達者だ。陽気な黒人を屈託なく演じていて、その立ち居振る舞いにはまったく違和感がない。そして、言うまでもなく演奏が抜群である。本作を観て惹かれるものがあったので、機会があったら『上流社会』【Amazon】や『5つの銅貨』【Amazon】も観てみたい。あと、『ハロー・ドーリー!』【Amazon】も再見しよう(内容もすっかり忘れてるし)。

ビリー・ホリデイが黒人メイド役なのは、時代の制約というやつだろうか。人種差別的な要素は特に見当たらないとはいえ、彼女も一流のミュージシャンなのだから、もっと上手い出し方をしてほしかった。サッチモらに比べると、いくぶん格の落ちる使い方をしている。

映画の舞台となっている20世紀初頭は、ラグタイムやブルースがまだ新しかった時代だ。ヒロインのミラリーはその斬新さに惹かれている。彼女はオペラ歌手という旧来的な音楽の担い手だった。ミラリーは若いがゆえに新しい音楽に惚れ込んだのである。逆に彼女の母親はそれを拒絶しており、親世代と子世代で対立が見られる。この構造はロックの黎明期と同じだ。いつの時代も若者は新しい文化に惹かれ、老人はそれに眉をひそめるのである。人類の業というものを垣間見た。

ヒロインが舞台のアンコールでニューオリンズを歌って会場が騒然となるシーンがいい。大半の客は憤然として席を離れるものの、一部の客はその場に残って拍手を送っている。また、ヒロインはラストでも同じくニューオリンズを歌うのだけど、そのときは会場全体から歓迎され、そのままThe Endに入っている。通常だったら再会したニックと包容してキスでもかまして終わるシーンなので、そういうのを省いたのが良かった。