海外文学読書録

書評と感想

ギデンズ・コー『あの頃、君を追いかけた』(2011/台湾)

★★★★

1994年。16歳の高校生コートン(クー・チェンドン)は、台湾中西部の町・彰化で仲間たちとつるんで楽しい学生生活を送っていた。ある日、コートンと隣の席の勃起(イエン・ションユー)が授業中にオナニーをする。激怒した担任は、クラス一の優等生チアイー(ミシェル・チェン)をコートンの指導役に任命する。チアイーはクラス一可愛い女子学生だった。コートンは口やかましい彼女に惹かれていく。

原作はギデンズ・コーの同名小説【Amazon】。

恋愛映画というか青春映画というか、つまりそういう類の映画だけど、いい意味で予想を裏切られた。おふざけ少年と真面目少女のプラトニック・ラブを『ラ・ラ・ランド』風に味付けしている(やってることはこちらのほうが早い)。これはチアイー役のミシェル・チェンが可愛いからこそ成り立っている映画で、彼女の一挙手一投足から目が離せなかった。思うに、アジア映画の強みってヒロインに魅力があるところではなかろうか。欧米の映画は得てしてヒロインが可愛くないからラブコメされても感情移入できない。勝手にやってろって思う。僕は今まで欧米べったりだったので、思わぬ鉱脈を見つけて嬉しくなった。今度から可愛い女の子が見たくなったらアジア映画を観ることにしよう。

「恋はつかめないほうが美しい」というセリフが本作を象徴している。恋愛なんて追いかけてるうちが華で、一度交際するとお互いの汚い部分を見て幻滅してしまう。汚れちまつた悲しみに暮れてしまう。そして、ロマンティックなのはいつだって男のほうだ。コートンがチアイーのことを一途に思い続けていたのに対し、チアイーのほうはしれっと男を作っている。お互い相手のことが好きなのに、結果的には片思いのような状況になっている。結局、2人はセックスもしなければキスもしない。プラトニックな関係のまま終わっている。でも、そういう微妙な距離感が心地いいのだ。特に高校時代、チアイーがコートンの背中をことあるごとにボールペンでつついて振り向かせるところが印象的で、これぞ青春の一コマという感じがする。

本作では『聖闘士星矢』【Amazon】や『ドラゴンボール』【Amazon】、『はじめの一歩』【Amazon】など、随所に日本のサブカルチャーが出てくる。この部分で面白かったのがコートンたちの会話で、「井上雄彦が交通事故で死んだ」というデマが流れているのには笑った。あと、大学生のコートンが飯島愛のAVを見ていたのは衝撃的である。エロは国境を超えるということだろうか。

ところで、チアイーが学校帰りに友達とタピオカミルクティーを飲んでいた。どうやら台湾人はあの飲み物を常飲してるらしい。さらに、「幼稚」は中国語でも「ヨウチー」と発音するようだ。台湾についてささやかな知見が得られた。