海外文学読書録

書評と感想

ビリー・ワイルダー『失われた週末』(1945/米)

★★★

ニューヨーク。売れない作家ドン・バーナム(レイ・ミランド)は重度のアルコール依存症だった。彼は兄のウィク(フィリップ・テリー)と恋人のヘレン(ジェーン・ワイマン)に支えられているものの、一向に酒をやめる気配がない。監視の目を盗んで酒を買いに行こうとしている。週末には兄が旅行に連れ出そうとしていたが……。

アルコール依存症の悲惨さを描いた映画。当初はそんな深刻じゃないなと思いながら見てたのだけど、段々と依存症がエスカレートしていく様が恐ろしく、終盤で病棟に収容されてからはほとんどホラー映画みたいだった。最初はただ酒を求めていただけだったのが、遂には幻覚を見て発狂寸前にまで至っている。僕は飲酒をしないし、身近に依存症の人もいないから実感が沸かないのだけど、酒の魔力は相当強いことが分かった。依存症の果ては自殺しかないのだ。しかし、振り返って当代の日本を見ると、高濃度アルコール飲料ストロングゼロAmazon】が「飲む福祉」として受容されている。従って、本作は現代人にも訴求するような映画と言えよう。

主人公のドンが酒に溺れるきっかけがせつなかった。ドンの人生は19歳のときが絶頂期で、当時は小説が評価されて天才と持て囃されていた。作家で食っていけそうだから大学を中退したものの、2作目3作目といい小説が書けずに足止めを食うことになる。そして、彼は絶望を紛らわすために酒を飲むようになった。30歳の誕生日に死ぬつもりで拳銃を持っているのだから泣かせる。結局、彼は33歳になったけれども、しかしこの歳になってもアルコール依存症のせいで自立できず、兄の世話になっているのだった。要するに作家として芽が出ないことが依存症の引き金になっているわけで、才能でぶっちぎれない半端者はつらすぎると思う。

こういう映画は依存症の人間がどれだけみっともない姿を晒すかが肝だけど、その辺は申し分なかった。ドンが抱く酒への渇望をこれでもかと描いている。酒を飲むシーンよりも、酒を探し回るシーンのほうが強烈だったかもしれない。酒を求めて家探ししたり、飲み代欲しさに置き引きしたり、見ていて惨めさが際立っている。ドンが苦しそうな表情で街をフラフラする様子も痛々しく、やっと辿り着いた酒場でマスターに酒を懇願する姿は救いようがなかった。段々と堕ちていくドンの面容には迫力がある。

ラストは前向きではあるものの、依存症が治ったわけではなく、作家として一歩踏み出したにすぎない。いきなり酒を断てるわけでもないから前途多難だろう。依存症は一生ものなわけで、こうならないためにも酒には手を出さないほうがいいと思わせる。