海外文学読書録

書評と感想

ハワード・ホークス『コンドル』(1939/米)

★★★

エクアドルの港町バランカ。ショーガールのボニー(ジーン・アーサー)が、帰国の途中この町に立ち寄る。彼女は地元で郵便配達をしている航空会社のパイロットたちと知り合い、責任者のジェフ(ケーリー・グラント)に心を惹かれる。ボニーは予定を変更して町に滞在することに。その後、町に嫌われ者のパイロット・バット(リチャード・バーセルメス)とその妻ジュディ(リタ・ヘイワース)がやってくる。ジュディはジェフの元恋人だった。バットはある理由から従業員のキッドに恨まれており……。

飛行機乗りという「男の世界」を描いている。その仕事は命がけで、本作は彼らのプロフェッショナリズムを主軸にしているのだけど、一方で男女の物語も絡めていて、この辺は昔のハリウッド映画らしいと思った。どうもハリウッドって、どんなジャンルでもヒーローとヒロインがいないと映画を撮ってはいけないみたい。『グレン・ミラー物語』みたいな伝記映画でさえ、そういうフォーマットに従っている。この時代の映画はわりと好みが分かれるかもしれない。

ジェフ役のケーリー・グラントは周囲から浮いてるくらいのイケメンだし、ボニー役のジーン・アーサーやジュディ役のリタ・ヘイワースも、他の女優陣とは一線を画したキラキラ感がある。ひとことで言えば、3人はすごく目立っている。こうやって一目見ただけで誰が重要人物なのかを分からせるのは、スターシステムの長所と言えるだろう。思えば、アニメでもメインとモブとでは服装や髪色などで差異が設けられているので、こういうのは映像表現の肝と言える。文字媒体と映像媒体の大きな違いがここだ。

本作を観て思ったのは、飛行機乗りの世界は軍隊に近いってこと。命をかける仕事だからこそ仲間内での仁義が重要だし、裏切り者や臆病者は蔑まれる。ある従業員は危険な仕事を断ったことでクビにされていたけど、これなんかは軍隊における敵前逃亡に相当するだろう。目の前の困難から逃げたらあっさり首を切られてしまう。一方で、英雄的な行動をとると仲間から評価される。嫌われ者のバットはその勇気によって信頼を取り戻した。この辺がいかにも「男の世界」で、飛行機乗りと軍隊は似ていると思う。

序盤である飛行機乗りが事故死したとき、ジェフは次のように言った。「泣いたところで変わらない」、「嘆いても生き返らない」と。ところが、終盤でキッドが死んだとき、彼は涙を流して悲しんでいる。人情の機微というか感情の変化というか、いずれにせよ、ちゃんと伏線を張っていたのだなあ、と感心した。

ところで、飛行機が飛ぶシーンは思いのほかアクロバティックで、炎上しながら飛行したり、機体をぶっ壊しながら着陸したり、かなり危険なことをしている。これらはどうやって撮ったのだろう? 模型には見えないし、時代が時代だからCGでもない。不思議に思いながら観ていた。