海外文学読書録

書評と感想

アンソニー・マン『グレン・ミラー物語』(1954/米)

★★★

質屋にトロンボーンを預けていたグレン・ミラージェームズ・スチュワート)が、自身の編曲した曲をベン・ポラックに気に入られて楽団入りする。ニューヨークで楽団から離れたグレンは、意中のヘレン(ジューン・アリスン)を呼び寄せ結婚するのだった。その後、「ムーンライト・セレナーデ」を作曲したグレンは、ヘレンの発案で自分の楽団を結成する。

実在の人物を題材にした伝記映画にして、ジャズを前面に出した音楽映画でもある。物語はグレン・ミラーのサクセスストーリーが主軸だけど、思ったよりもヘレンの役割が大きく、ちょっと小洒落たハリウッドの王道映画という感じだった。つまり、グレンというヒーローがいて、その傍らにヘレンというヒロインがいる。そういう古き良きテンプレートを踏襲している。個人的にはもっと伝記っぽいのを想像していたので、ちょっと拍子抜けしたかもしれない。

グレンとヘレンの二人三脚が見所だろう。ヘレンのやっていることは、日本風に言えば「内助の功」ってやつだ。演奏家として現状に満足しているグレンに対し、ヘレンは作曲の勉強をするよう勧めている。夢に向かって頑張ってほしいと叱咤している。かと思えば、グレンが自分の楽団を結成しようというとき、ヘレンはその資金をこっそり貯めていてどーんと提供している。ヘレン役のジューン・アリスンはハスキーボイスで、どこか田中真紀子を彷彿とさせる顔つきだ。そのせいか、終始やり手BBAという印象が強かった。

ルイ・アームストロングとベン・ポラックが本人役で出演し、楽器の演奏をしているところも見所だ。どちらも自然体で楽しそうに演奏しているところがいい。特にルイ・アームストロングは目を丸くして歌う姿がKONISHIKIにそっくりで、その曰く言い難い愛嬌はすこぶる魅力的だった。そりゃステージで人気になるよなあって感じ。やはりロックもクラシックもジャズも、音楽はライブ・パフォーマンスがすべてなのだ。レコードはその予習にすぎない。本作を観てその原則に気づかされた。

第二次世界大戦が勃発後、グレンは軍隊に入って慰問楽団を率いることになる。それで驚いたのが、いきなり大尉で任官しているところだった。おいおい、階級が高すぎね? 軍隊のことはよく分からないけど、任務と階級が釣り合ってないような……。それとも、楽団の指揮って僕が思うよりも遥かに重要な任務なのだろうか。ともあれ、軍隊でも相変わらずジャズを演奏していて、慰問にもお国柄が出るんだなあと感動した。