海外文学読書録

書評と感想

スティーヴン・スピルバーグ『ウエスト・サイド・ストーリー』(2021/米)

★★★

マンハッタン。当地では2つの不良少年団が対立していた。1つはポーランド系アメリカ人のジェッツ。もう1つはプエルトリコ系アメリカ人のシャークス。ジェッツのボスはリフ(マイク・ファイスト)、シャークスのボスはベルナルド(デヴィッド・アルヴァレス)である。ある日、リフは親友のトニー(アンセル・エルゴート)をダンスパーティーに誘う。そこにはベルナルドの妹マリア(レイチェル・ゼグラー)も来ていた。トニーとマリアは互いに一目惚れする。

ロバート・ワイズ版(邦題『ウエスト・サイド物語』)のほうが圧倒的にいい。スティーヴン・スピルバーグという天才ですら先行する映画を超えられなかったのは悲しいものがある。まあ、そもそも後発作品は先発作品の批評という形でしか存在し得ないから分が悪い。それは理解できる。だから人種問題を前面に出したリアリズム重視の内容になったわけだが、いくら差別化を図るとはいえ、今更そんなアレンジをしてどうするのか疑問である。確かに新鮮と言えば新鮮だ。しかし、代わりに華を失った。いくらブロードウェイの名作とはいえ、再映画化の意義がいまいちよく分からない。

ナタリー・ウッドやジョージ・チャキリスに匹敵する名優がいないのが敗因だろう。キャスティングは総じて政治的に正しい配慮がされていて、今回のマリア役はしっかりラテン系である。前回のような掟破りの配役はできなかった。当然、ジョージ・チャキリスのような輝きを持った俳優もいない。みんなモブのようである。一方、リチャード・ベイマーとアンセル・エルゴートは同格といった感じで、主役のわりに影が薄いところが共通している。全体的に本作の俳優はパッとしない。そこが引っ掛かった。

人種問題についてはかなり突っ込んでいる。ジェッツとシャークスは同じ移民集団であるが、ジェッツがポーランド系で白人なのに対し、シャークスはプエルトリコ系で有色人種なのである。この差を明確にしたところが印象的だった。ジェッツは自分たちを本流のアメリカ人と信じていて差別意識が強いし、シャークスはそんなジェッツに反発しつつよそ者という意識を強くしている。同じ移民でも白人と有色人種の共存は困難だった。面白いのは、ジェッツのメンバーがシャークスに差別的な言葉を投げつけているところだ。これが見ていて胸くそが悪くなるくらい侮辱的なのである。僕はこのシーンを見て思った。実はスピルバーグが一番やりたかったのは反PC的な描写なのではないか、と。つまり、PCを口実にして反PC的な描写をする。このような構造は『プライベート・ライアン』や『シンドラーのリスト』でも見られた。全体としては戦争や暴力に反対しつつ、細部では恐ろしくリアルな(スナッフ・フィルムのような)暴力を描いている。反PC的な描写にはこちらをぎょっとさせるような衝撃があるわけで、その衝撃をスピルバーグは観客に与えたかったのだろう。こういうところは食えない監督だと思う。

一番良かったシーンはトニーとマリアが一目惚れしたシーン。2人は軽く踊って話し合う。マリアのほうがキスを持ちかけ、いったんトニーが身を引いた後に2人はキスをする。一連の流れが芸術的だった。