海外文学読書録

書評と感想

キャシー・ヤン『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』(2020/米)

ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY(字幕版)

ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY(字幕版)

  • メアリー・エリザベス・ウィンステッド
Amazon

★★★

ゴッサム・シティ。ジョーカーと破局したハーレイ・クイン(マーゴット・ロビー)、暗殺者のハントレス(メアリー・エリザベス・ウィンステッド)、歌姫のブラックキャナリー(ジャニー・スモレット=ベル)、刑事のレニー・モントーヤ(ロージー・ペレス)、スリの少女カサンドラ・ケイン(エラ・ジェイ・バスコ)。女5人が裏社会の支配者ブラックマスク(ユアン・マクレガー)と対峙する。

原作はチャック・ディクソン、ゲイリー・フランク『Birds of Prey』【Amazon】。

ハーレイ・クインの魅力を全面に出した卒のないアクション映画。逆に言えばハーレイ・クイン以外はまったく魅力がない。みんなDCコミックスの登場人物らしいが、こんなに存在感がなくていいのだろうか。ただ、本作のいいところは全員が一般人であるところで、スーパーヒーローがやるような荒唐無稽なアクションはない。超人的ではあるものの、比較的人間らしい身体能力を感じさせるものになっている。そこは最新の技術で上手く表現されていた。たとえば、60年代の日活アクションや現代のニチアサ特撮に比べたら格段に上等だ。本作は超人的なアクションをどうやって自然な映像に落とし込んでいるのか謎である。おそらくVFX的なトリミング技術でもあるのだろう。この技術で仮面ライダーを作ったらすごいものができそうだ。

取ってつけたようなPCがどうにも引っ掛かる。たとえば、人種的な配慮。アフリカ系、ラテン系、アジア系と登場人物が多彩である。今年の第96回アカデミー賞では、白人のロバート・ダウニー・Jr.がアジア系のキー・ホイ・クァンを壇上で無視したことで話題になった。これは人種差別ではないか、と物議を醸したのである。アメリカではそういうことが日常茶飯事なので、せめて映画の中では人種差別をなかったことにしたいのだ。現実が酷すぎるので配慮をする。言い換えれば、臭いものに蓋をする。ゴッサム・シティは犯罪都市だから人種差別もえぐそうだが、それが一切ないところにアメリカの闇を感じる。

一方、本作はフェミニズムの要素もある。5人の女がチームを組むのは女同士の連帯を表しているし、そもそもハーレイ・クインが目指していたのは自立した女になることだった。ジョーカーと付き合っていたハーレイ・クインは、周囲から「ボスキャラになびく女」「一人じゃ何もできない」と目されていた。ジョーカーのおかげでハーレイ・クインに危害を加えようとする者もいない。ところが、今回ジョーカーと別れたことで状況が一変した。周囲は自分を特別視しなくなった。ハーレイ・クインは男の飾りではなく、一人の自立した女として再出発することになる。女性を主人公にするとこういう要素を入れないといけないから大変だ。入れないとフェミニストからクレームが来る。本作のフェミニズム要素は観客の反応を先取りしたアリバイ作りにしか見えなかった。

過剰なモノローグによって登場人物を手早く紹介したのは良かった。状況へのツッコミもポップな雰囲気を出していて面白い。ただ、警察署に乗り込むシーンで時系列を錯綜させたのは上手いやり口だとは思えなかった。巻き戻って経緯を説明することで物語がもたついているように感じる。とはいえ、全体的にモノローグによって語りの経済性を極限まで突き詰めているのは好感が持てる。エンターテイメントとして卒がなかった。