海外文学読書録

書評と感想

ジェームズ・ガン『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』(2021/米)

★★

アメリカ政府が犯罪者によって構成された特殊部隊スーサイド・スクワッドを南米の島国に派遣する。メンバーはハーレイ・クイン(マーゴット・ロビー)、ブラッドスポート(イドリス・エルバ)、ラットキャッチャー2(ダニエラ・メルシオール)、ピースメイカー(ジョン・シナ)、ポルカドットマン(デヴィッド・ダストマルチャン)、キング・シャーク(スティーヴ・エイジー)、リック・フラッグ大佐(ジョエル・キナマン)など。彼らの任務はスターフィッシュ計画の研究所を破壊することだった。

根本的に日本の漫画原作映画と大差ないような気がした。こちらのほうがちょっとばかり金がかかっているだけ。本作はデジタル技術をふんだんに使用しているが、確かにニチアサの特撮ドラマよりは映像がリッチであるものの、一般映画に比べるとリッチではない。全体的に嘘臭くていまいち没入することができなかった。押井守も言っていたが、デジタル技術を使いまくると映画はアニメと変わらなくなる。本作の嘘臭さはそこに由来する。今どき生身の人間を起用しているのは安く済ませるためだろう。50年後のヒーロー映画は全編フルCGアニメーションになってそうな気がする。

R指定にしてまでグロ描写を入れまくったのは『ザ・ボーイズ』の影響ではないか(『ザ・ボーイズ』は2019年公開)。表現が悪趣味でそれがギャグになっているところが共通している。こういうのはデジタル技術の正しい使い方だ。逆に怪獣映画のオマージュみたいなのは興醒めだった。「カイジュウ」という日本語はアメリカでも通用するらしく、ある人物がその言葉を発している。ただし、「カイジュウ」と戦うのは巨大化したヒーローではない。生身の人間(そうじゃないのもいるが)である。クライマックスに巨大生物を持ってくるのはいいとしても、無駄にスペクタクル感を出しているところが好みではなかった。

南米の反米国家を敵にするところは古典的だと思ったが、そこはちゃんとどんでん返しがあったので安心した。ここで興味深いのはアメリカの立ち位置だ。アメリカが外国で非人道的な実験に関与していた。ヒーローものだとアメリカは守るべき大切な故郷だが、本作ではそれが「悪」として真の姿を表すのである。これってシナリオとしてはわりと巧妙で、敵を外国に求めないのだからよくできている。つまり、敵はロシアでもなければイスラム国家でもないし、中国や北朝鮮でもない。言ってみれば己自身である。外国を敵にしないところは弁えている感じがして好ましかった。

冒頭の戦闘シーンが捨て石みたいな扱いだったり、殺した連中が実は味方の反政府軍だったり、予想を裏切る展開をぶっ込んできたところは現代的だった。イタチ人間ウィーゼルの扱いも人を食っている。本作は過激なグロ描写を含め、ところどころ悪趣味なところがセールスポイントだろう。こういうのは正統的なヒーローものだとやりづらいが、ヴィランを主人公にした映画なら違和感がない。まさに『ザ・ボーイズ』の類縁みたいな映画だった。

本作には色々な能力を持ったヴィランが出てくる。ところが、誰も彼もハーレイ・クインに及ばない。ハーレイ・クインは赤いドレスを着てのアクションが様になっていてやはり格が違っていた。たった2時間で多数のキャラを立たせるのは難しいと痛感する。