海外文学読書録

書評と感想

アーロン・ホーバス、マイケル・イェレニック『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』(2023/米=日)

★★★

ブルックリン。双子の兄弟マリオ(クリス・プラット)とルイージチャーリー・デイ)は配管工である。そんな2人が土管に吸い込まれて異世界に転移する。マリオはキノコ王国のピーチ姫(アニャ・テイラー=ジョイ)に会い、王国がダークランドのクッパ軍団に侵攻されそうになっていることを聞く。一方、ルイージはダークランドにワープし、クッパジャック・ブラック)に捕まってしまう。スターを手に入れたクッパはピーチ姫に求婚しようとしていた。

スーパーマリオの世界を忠実に再現しているところがすごかった。僕もこのゲームは子供の頃からの付き合いなので人並みに思い入れがある。だから本作みたいなハイクオリティな映像化はなかなか感動的だ。その反面、面白いかどうか問われたらかなり微妙で、映画というよりは金のかかったPVのようである。ストーリーがキッズ向けで薄っぺらいというか。ただ、本作におけるストーリーはアクションを見せるための導線に過ぎないので、そこに面白さを求めるのはお門違いだろう。ストーリーなんてあってないようなものである。そして、本作はマリオシリーズをプレイしていることが前提の映画だ。プレイしてない人が見てもつまらないし、逆にやり込んでいる人ほど楽しめる。なのでファン向けの映画だと言える。

スーパーマリオは日本のIPだが、映画はめちゃくちゃアメリカンで面白い。3DCGの質感はピクサー並のクオリティで、キャラクターは人形と見紛うほどである。このキャラクターを見ただけでアメリカの制作会社に任せて良かったと思ったくらいだ。そして、アクションシーンも日本のIPとは思えないほどぬるぬる動いている。スーパーマリオブラザーズの横スクロール、SASUKEみたいな障害物ステージでの訓練、そしてマリオカートを再現したカーチェイス。いずれも日本の制作会社だったら作れないレベルのアニメーションだ。ゲームに出てきたギミックが盛りだくさんで、ファンにとっては夢の映像化である。このクオリティの映像で実際にゲームができたらさぞ最高だろう。他にもアイテムの扱いだったり、敵キャラの造形だったり、スーパーマリオの世界が忠実に再現されている。本作の勝因はオリジナル要素を控えめにしたところで、ゲームのファンを楽しませるように作っているところが良かった。

ピーチ姫をアクションヒーローとして活躍させたのはPCに配慮したのだろう。今どき囚われの姫君は流行らない。代わりにルイージクッパに囚われている。面白いのはピーチ姫も異世界から転移してきたことだ(それも子供の頃に)。どうやら人型の生き物はこの世界固有の存在ではないようである。成長したピーチ姫はキノコ王国を率いる立派なリーダーになった。そして、異世界転移と言えばマリオとルイージはブルックリンではしがない配管工にすぎなかった。それが異世界ではアクションヒーローに様変わりしている。元の世界では大衆に過ぎなかった存在が異世界ではヒーローになる。異世界転移ものの本質は洋の東西変わらないのだと痛感する。

ゲームのファンにとっては理想の映像化ではあるが、欲を言えばもう少し大人の鑑賞に耐えうる何かを入れてほしかった。ディズニー映画が評価されているのもそういう部分があるからだし。まあ、ないものねだりではあるが。見終わった後いくぶんの物足りなさを感じたので、僕には娯楽映画は向いてないのかもしれない。