海外文学読書録

書評と感想

サム・メンデス『1917 命をかけた伝令』(2019/英=米)

1917 命をかけた伝令 (字幕版)

1917 命をかけた伝令 (字幕版)

  • ジョージ・マッケイ
Amazon

★★

1917年4月6日。第一次世界大戦西部戦線。イギリス軍兵士のウィリアム・スコフィールド(ジョージ・マッケイ)とトム・ブレイク(ディーン=チャールズ・チャップマン)に伝令の命令が下る。前線では明朝に友軍が突撃する予定だったが、ドイツ軍が罠を張っていることが判明したのだ。このままだと1600人の仲間たちが危機に晒される。2人は命令書を持って前線に向かう。

ワンカット風に表現することが大きな制約になっているように感じた。映像のチープさと相俟って、『プライベート・ライアン』【Amazon】の劣化版みたいになっている。

文学を文学たらしめているのが文章だとしたら、映画を映画たらしめているのは映像だろう。そして、映像表現で重要なのがカメラワークとカット割りだ。本作の場合、カメラワークは申し分がない。たとえば、2人が塹壕を歩いていくシーンなんかあんな狭い場所でどうやってカメラを動かしているのだろう、という不思議さがある。すれ違うのも困難な場所で自在にカメラが回り込んでいるのだ。一方、カット割りについては微妙である。ワンカット風とはいえ、どこでカットを割っているのかは見え見えだし、またカットをシームレスに繋いだ結果、オープンワールドのテレビゲームみたいになっている。極端な話、単にワンカットの世界を堪能したいのだったらゲームをプレイすればいい。あれなら2時間どころか、5時間でも6時間でも好きなだけ楽しめる。映像や音響だって最近の映画とどっこいどっこいだろう。本作は既に他のメディアで達成されていることを映画で追随したような形になっていて物足りなかった。

さらに戦争映画にしては映像に迫真性がなく、日本の大河ドラマのようなコスプレ劇にしか見えないのが気になる。風景もセットもミニチュアのようで嘘っぽいのだ。画面の色合いは綺麗なわりに不自然で、CGを相当使っていると推察される。映像については空間設計も含めてゲームっぽい。現実の戦争なんてもっと汚くて悲惨なはずなのに、こんなに小綺麗でいいのだろうか。結果的にはリアリティに乏しい絵面になっていて、悪い意味でゲーム的だと言える。

突然ドイツ軍の戦闘機が墜落してきたり、民家で赤ん坊を抱えた母親に遭遇したり、イベントも無理やり作ってる感じがして興醒めだった。風景を変えるためだとか、物語にアクセントをつけるためだとか、そういった作り手の意図が透けて見える。観客に作為を感じさせるところも迫真性の欠如に繋がっているのではないか。本作はワンカット風に表現することが大きな制約になっていて窮屈そうだった。

こういう映画を観るくらいなら素直にゲームをプレイしたほうがいい。