海外文学読書録

書評と感想

中平康『牛乳屋フランキー』(1956/日)

★★★★

長州から堺六平太(フランキー堺)が上京し、遠縁の杉香苗(坪内美詠子)が営む牛乳屋を手伝う。杉の店は学生の石山金太郎(市村俊幸)から借金していた。六平太は配達の最中に様々な人たちと知り合う。そんななか、ライバルのブルドッグ牛乳の親父(柳谷寛)と人使いの荒いマサヨ(利根はる恵)が現れ……。

矢継ぎ早にネタが繰り出されるスラップスティック・コメディ。とても面白かった。監督の中平康『狂った果実』でデビューして本作が同年公開の第4作になるが、こちらのほうが遥かに完成度が高い。彼は時代の切り取り方が独特で、シリアスもできればコメディもできる稀有な監督である。どの映画もユーモアとペーソスを備えていて、作品によってその配分が違っている。本作はユーモアに振り切った快作といった感じだ。中平康は日活プログラムピクチャーの監督の中でもセンスが際立っていて一番好きかもしれない。

狂った果実』を撮った監督が太陽族をネタにしているところが面白い。登場人物の石山金太郎は石原慎太郎をもじった人物である。ただし、石原慎太郎とは似ても似つかない巨漢だ。食べる飯の量が半端ないし、牛乳も1リットルくらいの大瓶で飲んでいる。そんな彼はヘアスタイルを慎太郎カットならぬ金太郎カットにするのだった。他にも『太陽の季節』や『狂った果実』を直接出して太陽族を茶化している。どちらも日活で映画化されているから楽屋ネタだ。こういった楽屋ネタは他にもあって、映画撮影のシーンでは日活ならぬ頓活も出てくる。その際、臆面もなくインディアンを出していて苦笑した。当時はまだ大丈夫だったということだろう。お笑いも時代によってできるネタとできないネタがある。そういう水物を楽しめるのが映画のいいところである。

笑えたネタ。宮城(きゅうじょう)に行くと言ってタクシーに乗ったら後楽園球場に着いた。驚く六平太に対し、今は宮城ではなく皇居だよとツッコミが入っている。六平太が階段を転げ落ちるシーン。転げた方がめちゃくちゃ上手くて芸術的だった。西郷隆盛のそっくりさんである南郷隆盛(四代目澤村國太郎)の登場。しっかり犬を連れている。出オチかと思いきや本筋にしっかり絡んできた。団地の階段を駆け上るシーン。早回しとはいえ、2セットも繰り返していて大変そうだった。泡風呂に入っているマサヨとのやりとり。ここはちょっとくどかったが、10円玉を入れるガスコンロが目を引いた。調べたら山谷の簡易宿泊施設に今でもあるらしい。まさに昭和の文化財である。牧場に見学に行くシーン。ミュージカルから西部劇に様変わりするところが出色だった。

フランキー堺一人二役を演じているが、終盤ではその2人が同じフレームに入っている。合成なのは明らかだが、全然違和感がない。2人同時に動いており、演技も映像も自然である。当時の技術でどうやって合成したのだろう? また、自転車で競争するシーンがあったが、ここのカメラワークとカット割も良かった。横から追いかけるアングルではバイクで並走しているはずなのに、画面が安定していて意外である。このシーンは中距離で撮ったり、ローアングルで見せたり、カメラワークが素晴らしい。映像面で一番良かったのはここだった。

本作には豊頬手術前の宍戸錠が出てくる。細身のイケメンでびっくりした。こんなイケメンでも顔に手を入れないと主演になれないなんて映画業界は厳しすぎる。