海外文学読書録

書評と感想

鈴木清順『俺たちの血が許さない』(1964/日)

★★

浅利組組長・浅利源治(緑川宏)が殺害されて18年。息子2人は母親に育てられて今では手に職をつけていた。兄・良太(小林旭)はキャバレーの支配人、弟・慎次(高橋英樹)は広告会社の社員をしている。良太は秘書の郷田ヤス子(松原智恵子)といい仲で、慎次は同僚の片貝ミエ(長谷百合)といい仲だった。ある日、浅利家に父を殺した男・飛田丑五郎(井上昭文)が訪問してくる。

原作は松浦健郎。

主演の一人、高橋英樹が良くなかった。小林旭『仁義なき戦い』に通じる渋い演技なのに対し、高橋英樹『けんかえれじい』路線のガキ臭い演技をしている。これがとんでもなく煩くてうんざりする。たとえるなら黒板を爪で引っ掻くような不快さというか。こいつ大根役者かよと思ったが、『刺青一代』は悪くなかったので単に資質に合わない役だったのだろう。2人を対照的なキャラ設定にしたのが裏目に出た感じだ。

所々にへんてこなショットが見られる。不自然に着色された夕空、大写しになるタイピングの文字列、唐突に挟まれるモノクロの風景。カット繋ぎも大胆で、キスからキスへのジャンプカットや、恋人同士が愛撫していたシーンから片方が死ぬシーンにショートカットのように繋げることもしている。片貝ミエが何の脈絡もなく拳銃をぶっ放しているのは意味が分からない。また、良太と慎次が車の中で会話するシーンがあるが、どのアングルから映しても背景に荒ぶる海が映っていて異様だった。後にそのシーンは雨の中車を運転しているシーンに繋がる。どうやら誇張された心象風景だったらしい。そして、クライマックスの銃撃戦。着弾の表現がチープで低予算なのか狙った演出なのか分からなかった。この銃撃戦ではたくさんの銃弾を浴びた良太がなかなか死なないどころか、反撃して何人もの敵を撃ち殺している。ここまで来ると手抜きの疑いさえ出てくる。鈴木清順はプログラムピクチャーを作るのに飽きたのだろうか。『野獣の青春』から一皮剥けた彼だが、そこから『殺しの烙印』までのフィルモグラフィーに限定するとちょっと水準に達してない。やる気のなさを演出でカバーしきれてないように見える。日活のキャリアにおいては1966年(『河内カルメン』『東京流れ者』、『けんかえれじい』)が頂点だったようだ。

本作はカラーのシネマスコープだが、VODだとフルHDで画質がいい。看板映画でもないのになぜここまで高待遇なのだろう? 日活のVODにはまだまだ画質の悪い映画がたくさんあるというのに。ともあれ、クライマックスの銃撃戦は高画質ゆえに見やすくなっている。というのも、舞台は夜明けの野原(おまけに曇り空である)で薄暗いのだが、画面の明るさが適切なのだ。ぎりぎり何が起こっているのか分かるくらいに調整されている。これがいつもの低画質だったら見づらかっただろう。本作はフルHDが功を奏していた。

松原智恵子が陰りを帯びた女を演じているがよく似合っていた。長谷百合もバカっぽい女を好演している。ヒロイン2人はとてもいい。