海外文学読書録

書評と感想

鈴木清順『刺青一代』(1965/日)

刺青一代

刺青一代

  • 高橋英樹
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★★★★

昭和初年。「白狐の鉄」こと村上鉄太郎(高橋英樹)は敵対するやくざの親分を殺害したが、すぐさま仲間に始末されそうになる。そこを弟・健次(花ノ本寿)に助けられるのだった。兄弟は満州へ逃げようとするも詐欺に遭って金を巻き上げられる。途方に暮れていたところ、列車で知り合った女・みどり(和泉雅子)の斡旋で坑夫として働くことに。健次はみどりの姉で人妻の雅代(伊藤弘子)に惚れる。一方、みどりは鉄太郎に惹かれるが、労務主任・江崎(小高雄二)から強引に迫られ……。

健次がやくざに斬られてからのラスト12分が最高だった。むしろ、見所はそこしかないような気がする。それまでチラ見せに過ぎなかった「赤」が突如として顔を出し、ケレン味のある演出で討ち入りシーンを描いている。ラスト12分は構図も演出もバッチリ決まっていて本当に素晴らしかった。

健次が斬られた後、赤が地面を這い出して空が真っ赤に染まる演出が堪らない。ここでスイッチが入ったというか、リアリティラインが変更された感がある。屋内の電灯もさりげなく赤。血の赤で染まっている。そして雨の中、鉄太郎が番傘を差して討ち入りに行くところの格好良さ。現場に到着後は水色や黄色といったカラフルな襖を開けていき、横スクロールアクションから俯瞰による縦スクロールアクションに切り替わっている。この構図が素晴らしすぎる。むしろ、構図に気を取られてアクションには目が行かなかった。刀で複数人と斬り合ってついでに拳銃もぶっ放していたような気がする。ともあれ、終盤の討ち入りシーンは惚れ惚れするほどの見栄えだった。

ただ、そこに至るまでのドラマは健次がダメ男すぎてイライラさせられた。逃亡中の身なのにあろうことか人妻に惚れて危ない橋を渡っているのだから。観音様を彫りたいという理由で「奥さんの裸を見せてください」と頼むのは普通に考えて狂っている。しかも、人妻は人妻で満更でもない様子を見せているし。健次は鉄太郎から何度か窘められるが聞く耳を持たない。己の情熱に身を任せている。最終的に鉄太郎は警察に逮捕されてしまうが、それもこれも健次のせいなのだ。上手く行けば兄弟揃って満州に高飛びできたのに、健次がギリギリのところで誤った決断を下してしまうから……。こいつのダメ男ぶりは救いようがない。

欲望に忠実だった健次とは対照的に鉄太郎は鉄の自制心を見せている。好意を寄せてきたみどりとはなるべく距離を置いていたし、満州についていきたいと言ってきたときもピシャリと断った。「俺の体は汚れてるんだ」と言ってみどりに刺青を見せたのは住む世界が違うことを示したのだろう。所詮は渡世人とカタギ。結ばれるわけがない。やくざをしていた鉄太郎にはそういった諦念がある。弟が聞き分けないのない子供だっただけに、兄のストイックな態度が際立っていた。

和泉雅子がおきゃんな娘を演じている。姉御肌で気風がいいし、眩しい笑顔を見せているし、時代劇のヒロインとしてすこぶる魅力的だった。とにかく和服がよく似合っている。『若草物語』の時とはまた違った可愛さだった。