海外文学読書録

書評と感想

森永健次郎『若草物語』(1964/日)

★★★

次女・由紀(浅丘ルリ子)、三女・しずか(吉永小百合)、四女・チエコ(和泉雅子)が新婚の長女・早苗(芦川いづみ)を頼って大阪から上京する。姉妹は同郷のカメラマン・次郎(浜田光夫)と再会、また、ブルジョワの学生・圭一(和田浩治)とも知り合いになる。しずかは次郎に思いを寄せるが、次郎は由紀と交際することになった。

日活の美人女優が夢の共演を果たしている。このメンツでも芦川いづみの美しさが際立っていた。アラサーになって熟した魅力が出てきたと思う。本作のメインは浅丘ルリ子吉永小百合であるため出番は多くないが、それでも画面に映ったときは極上の煌めきを見せていた。芦川いづみは僕が今まで見てきた中で最高の美人である。「和製オードリー・ヘップバーン」の異名は伊達じゃない。こんな美人が日本に生まれて女優になったのは奇跡だ。現代人としては、その美をカラーの高画質(フルHDシネマスコープ)で堪能できるところが嬉しい。デジタル時代に生まれてつくづく良かった。

メインは由紀、しずか、次郎の三角関係で、そこに圭一と山本(杉山俊夫)が絡んで複雑になっている。姉妹でありながらも由紀としずかは水と油だ。父親(伊藤雄之助)が上京してきた際は大阪に帰すかここで面倒を見るかで対立している。しずかは極度のファザコンだった。そして、恋愛の主導権は終始由紀が握っている。彼女は終盤まで次郎と順調に交際していた。おまけに遊び友達として圭一とも親しくしている。一方、しずかは次郎に思いを寄せつつ、次郎の同僚・山本から言い寄られていた。しずかは由紀の恋愛を応援してるが、実際は不本意な立場に立たされている。

次郎はカメラマンという職業柄出張が多い。あるとき伊豆諸島に行こうとする次郎に対し、由紀は「嫌よ、嫌よ」とごねたうえ、「そんなに仕事が大事なの、あたしより大事なの」と詰め寄った。最悪のメンヘラムーブである。労働者は働かないと生活が成り立たない。仕事とあたしのどちらが大事かと訊かれたら仕事と答えるに決まっているだろう。愛だけで腹は膨れないのだから。そして、由紀は愁嘆場を演じつつすぐさま圭一に乗り換えてしまった。圭一はブルジョワだから玉の輿である。由紀は次郎と決別する前、圭一から熱烈なプロポーズを受けていたのだ。当人は感情の赴くまま決断したのだろうが、それにしても節操がない。まるで二股をかけていたようである。

由紀と破局した次郎は頭を冷やすため瀬戸内海に出張に行く。そんな次郎をしずかが追いかけるのだから何だこりゃと思った。そりゃまあ、別れたばかりでチャンスはある。しかし、次郎からすれば気持ちの整理はついてないし、そもそもしずかに気があるのかどうかも不明だ。一途に思うしずかの純情が美しい、ということなのだろう。片思いの美しさも理解できなくもないが、現代人からするとあまりに真っ直ぐで困惑する。仮に次郎が振り向いたら蛙化現象に陥るのではないか。恋愛なんて追いかけているうちが華である。

上京したばかりのチエコはアルサロで働き始めた。アルサロとはアルバイトサロンの略で、現代のキャバクラのことらしい。姉2人はデパートに勤めているのだから彼女の奔放な性格が表れている。また、チエコが男とキスする場面がある。その際キスの瞬間を映さず、人形で誤魔化したところが可笑しかった。さすがに看板女優のキスシーンは映せないのだろう。チエコ役の和泉雅子は当時17歳だし。ともあれ、チエコは姉妹の中でもっともマイペースで幸せそうだった。