海外文学読書録

書評と感想

トニー・スコット『トップガン』(1986/米)

トップガン (字幕版)

トップガン (字幕版)

  • トム・クルーズ
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★★★

F-14のパイロット・マーヴェリック(トム・クルーズ)は、腕は立つものの無謀な操縦で上官に目をつけられていた。彼はインド洋上で国籍不明のミグと空中戦になり、相手を見事退却させる。その腕を見込まれてエリートを育成するトップガンに派遣された。マーヴェリックは教官のチャーリー(ケリー・マクギリス)に一目惚れする。

金のかかったプログラムピクチャーみたいだった。戦闘機による空中戦はそれなりにゴージャスであるものの、物語は型にはまっていて陳腐である。とはいえ、今ほどPCに毒されていないところは面白い。メインキャストに有色人種はいないし、ヒロインは今どき珍しいブロンド美人である。当時はこれで許されたのだ。現代人からすると、ヒロインがトロフィーワイフであるところが目を引く。すなわち、彼女は主人公の男性性を証明するために用意された添え物に過ぎない。片方に男がいたらもう片方に女がいて、2人は恋に落ちる。ハリウッド映画はどんなジャンルでもヘテロセクシュアルの恋愛をねじ込まないと気が済まないのだ。本作では相棒の事故死による苦悩が描かれるが、しかしそれは主人公が一皮剥けるための通過儀礼に過ぎず、基本的には能天気な英雄譚である。捻りのない脚本でインスタントな快楽を提供する。経済性に特化しているところはまるでプログラムピクチャーのようだ。80年代がどういう時代だったのか、本作である程度察することができる。

空中戦は実機を使っているだけあってそれなりにゴージャスだが、カット割りが細か過ぎて何が起きているのかいまいち分からない。とはいえ、実際の戦闘も相当分かりづらいはずで、この分かりづらさがリアルと言えばリアルなのだろう。言うまでもなく戦闘機はものすごいスピードで飛ぶ。敵味方が入り乱れるとどういう状況なのか把握しづらい。本作はその緊張感を再現したかったのではないか。そもそも飛んでいる戦闘機をカメラに収めるのも大変だが、本作は戦闘機をほとんど画面の中央で捉えていて絵になっている。どうやって撮影したのか不思議でならない。捉えがたい対象を極めて自然に捉えている。本作のいいところは戦闘機を格好良く映したところだった。

当時はアフガニスタン紛争の真っ最中でソ連との関係は険悪だったはずなのに、劇中に具体的な国名を出さなかったのはすごい判断だった。もちろん、ミグはソ連製の戦闘機である。しかし、この機体を採用している国は多い。東側諸国のみならず、第三世界諸国でも使われている。我々はソ連を真っ先に連想するが、しかし、劇中ではそんなこと一切明言していないのだ。これは政治的な配慮なのだろうか。確かに具体的な国名を出すと余計な思惑がまとわりついてしまう。娯楽映画がプロパガンダ映画に堕してしまう。具体的な国名を出さなかったのはいい判断だった。

軍人たちがビーチバレーをするシーンがある。何人かが半裸になっていたが、トム・クルーズを含め俳優陣が軒並みマッチョで壮観だった。役に合わせてちゃんと体を鍛えているのだから偉い。みんな本物の軍人と遜色なくて感心した。