海外文学読書録

書評と感想

グザヴィエ・ドラン『トム・アット・ザ・ファーム』(2013/カナダ=仏)

★★★★

ホモセクシャルの青年トム(グザヴィエ・ドラン)が、恋人ギヨームの葬儀に出席すべく彼の実家へ赴く。そこは田舎の農場だった。ギヨームの母アガット(リズ・ロワ)は息子が同性愛者であることを知らず、恋人はサラという女性だと思い込んでいる。そこへギヨームの兄フランシス(ピエール・イヴ・カルディナル )が登場。トムに暴力を振るい、話を合わせるよう強要する。

田舎を舞台にしたサスペンス。今回はケレン味のある演出は控えめで、かなりベタなことをやっていたと思う。たとえば、空撮で田舎の風景を流すとか、劇伴でスリルを煽るとか、危機的場面で画面の上下幅を狭くするとか。総じていつもより娯楽映画に寄せているような印象がある。しかし、かといって職人に徹しているわけでもなく、同性愛やマザーコンプレックスといった監督ならではの題材も見て取れる。加えて、本作ではマチズモの悲哀も取り込んでいた。本作は娯楽映画の枠組みでいつもの作家性を発揮しているところが面白い。

田舎の何が怖いのかというと、いざというときに逃げ場がないからで、だからこそサスペンスの舞台にふさわしいのだろう。トムはフランシスの暴力によって、物理的にも精神的にも監禁状態に置かれてしまう。フランシスは地域で孤立しているような狂人で、母親への愛情が深かった。彼が田舎に残っているのも寡婦である母親の面倒を見るためであり、トムに嘘をつくよう強いるのも母親を悲しませないためである。30歳のフランシスが老いた母親と同居しているのは異常な状況だ。これだけでも恐怖に値する。

フランシスは暴力によってトムを支配しようとしている。しかし、この暴力は実のところ弱さの裏返しで、彼はトムのことを切実に必要としていた。ちょうどDV夫が妻を離したがらないのと同じ構図である。フランシスは母親に依存し、トムに依存し、出口のない関係性の虜になっている。こんなことになっているのもフランシスが地域で孤立しているからだろう。被害者のトムからしたらいい迷惑で、暴力とは幼児性の発露に他ならないと痛感させる。

トムの女友達サラ(エヴリーヌ・ブロシュ)は、フランシスの暴力に屈しない頼もしい性格をしている。サラの登場によって、唯々諾々とフランシスに従うトムの弱さが浮き彫りにされるのだった。サラなら簡単にトムを救えそうだけど、そこはちゃんと救えないようにできていて、希望と絶望のジェットコースターになっている。サスペンスとはこういうものだよなあと感心した。