海外文学読書録

書評と感想

グザヴィエ・ドラン『胸騒ぎの恋人』(2010/カナダ)

★★★★

フランシス(グザヴィエ・ドラン)とマリー(モニカ・ショクリ)は親友同士。そんな2人が金髪イケメンのニコラ(ニールス・シュナイダー)と出会う。友情を育む3人だったが、その過程でフランシスもマリーもニコラへの想いを募らせていく。恋のライバルとなった2人はそれぞれニコラに告白するが……。

学生の自主制作映画を高級にしたような感じ。色々な技法を意欲的に使っていて、監督の才気が迸っている。中には滑った表現もあるけれど、総じて編集のセンスが良くて見栄えがいい。何より元になる映像が一流なので、序盤の印象ほどには退屈しなかった。こういうのってオーソドックスな商業映画ではなかなかお目にかかれないから貴重だ。

序盤はアンチロマンというか、どういう話なのか掴ませない編集になっていて、実のところ先行きが不安だった。インタビュー形式だったり、スローモーションだったり、原色のフィルターだったり、とにかく奇を衒った演出が目立つ。しかし、そういった迷路を抜けると一転して話が見えてくるようになる。本作で描かれていることはとても単純だった。これは単純な話だからこそ編集に工夫が必要だったわけで、その工夫が映画の充実感に繋がっている。

ニコラを真ん中に置いて3人が横並びになる構図は微笑ましいのだけど、愛が絡むことでその関係が破綻してしまう。愛とは一時の熱情で、それに取り憑かれている間は対象が世界のすべてだ。しかし、何らかのきっかけで対象から距離が離れると、燃え上がった執着心もなくなってしまう。ひとことで言えば、目が覚めてしまう。そういう心理は「スワンの恋」(『失われた時を求めて』【Amazon】所収)でも描かれていた。フランシスとマリーはそれぞれニコラに振られた。そこで関係が途切れてしまった。普通だったら振られた相手に未練が残るものだけど、過ぎ去った時間がそれを押し流してしまう。一年ぶりにニコラと再会したときの2人がまた奮っていて、人間とはつくづく現金な生き物だと感心する。

3人でブランコに乗ってゆらゆらしているシーンが最高だ。こういう関係がいつまでも続けばいいのにと願ってしまう。それと、ニコラ役のニールス・シュナイダーがとんでもないイケメンで、主演のグザヴィエ・ドランを食っていた。実を言うと、最初はニコラが主役だと思ったほどだ。それくらい画面に映えている。