海外文学読書録

書評と感想

グザヴィエ・ドラン『Mommy/マミー』(2014/カナダ)

Mommy/マミー(字幕版)

Mommy/マミー(字幕版)

  • アントワン=オリヴィエ・ピロン
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★★

シングルマザーのダイアン・デュプレ(アンヌ・ドルヴァル)が、15歳の息子スティーヴ(アントワーヌ=オリヴィエ・パイロン)を矯正施設から引き取る。スティーヴはADHDで情緒不安定だった。彼は口が悪く衝動的でよく暴力を振るうが、母親のことは愛している。2人は隣家のカイラ(スザンヌ・クレマン)と知己になり、カイラはスティーヴの家庭教師になる。順風満帆かと思いきや、スティーヴが起こした放火事件のせいで訴訟を提起される。

息子は粗暴な厄介者だけど、母親は無償の愛を永遠に捧げていく。そういう共依存を描いている。母親にとってはどんな息子でも天使ちゃんなのだろうが、それにしたってスティーヴはきつすぎる。落ち着いているときは母親思いの健気な息子なのに、一度スイッチが入ると手のつけられない暴力魔人と化す。そもそも彼は普段から口と態度が悪かった。思ったことをそのまま喋るタイプである(発達障害にありがち)。ダイアンはまるでDV夫から離れられない妻のようで、息子に翻弄されつつ無償の愛を捧げている。

この映画、母親というものを理想化しすぎではなかろうか。そりゃフィクションとはそういうものだが、スティーヴの他害性を目の当たりにすると苛立ちしか感じない。殴って躾けるしかないように思う。ただ、実際は殴っても矯正はできない。発達障害とはそういう特性なのだから。だったらどうするのかと言ったら、精神病院で一生過ごしてもらうしかないのだろう。拘束具をつけて薬漬けにして無力化する。それでは可哀想? しかし、あんなのを野放しにしたら何をするか分からない。最悪、人の命を奪いかねないのである。実際、スティーヴは矯正施設で放火事件を起こし、入所者に一生癒えない傷を負わせた。自由とは他人の権利を侵害しない限りにおいて許されるものである。スティーヴはその条件から外れている。犯罪者を刑務所に収容するように、他害性の強い障害者も精神病院に隔離するしかない。平穏な生活を願う一市民としてはそういう理路に立つしかないわけで、厄介者を溺愛する母親が見ていてきつかった。

ティーヴはあれだけ他人に迷惑をかけておいて罪悪感がないのかと思ったらそうでもなく、スーパーに買いものに行ったときにリストカットしている。見た感じ傷が深く本気の自殺未遂のようだ。また、スティーヴは進学先としてジュリアード音楽院を目指している。そういう描写は一切なかったが、いわゆるギフテッドなのだろう。こんな風に暴力性の裏側にある感受性を押し出してくるところが鼻につく。グザヴィエ・ドランが自己を投影している感じがするというか。マザコンはまだ許せるが、ナルシシズムはちょっと許せない。本作で一番きついのがここだった。

普段は画面のアスペクト比が1対1になっているが、ここぞというときにはワイドスクリーンに変化する。その演出はなかなか良かった。