★★★★
セミドキュメンタリー。ベルリンのスクラダノウスキー兄弟が「ビオスコープ」というプロジェクターを発明する。それはフランスのリュミエール兄弟が発明した「シネマトグラフ」よりも早かった。サイレント映画風の再現映像とマックス・スクラダノウスキーの娘ルーシーへのインタビューによって構成する。
再現映像のパートがよく出来ていて、俳優がちゃんとスラップスティック・コメディみたいな動きをしている。映像の質感も当時に近づけつつ現代らしいリッチな質感だ。発明家にまつわるイノセントな語り口は、スティーヴン・ミルハウザーが描く夢想の世界のようである。本作は再現映像とインタビューの二本立てだが、ヴィム・ヴェンダースはノリノリでこのパートを作ったと思われる。これみよがしにアイリスショットを多用していて思わずニヤけてしまった。
映画というのがパラパラ漫画の原理で動いていることは未だに驚く。つまり、フィルムを切ったり貼ったりして被写体を動かしているのだ。今はデジタル撮影・デジタル上映が当たり前だし、写真もデジカメやスマホが主流だからフィルムを見る機会がない。だからフィルムを一コマ一コマ繋いでいく作業が新鮮に映る。ビオスコープの現場は家内制手工業によって成り立っていた。そこでは写真が動くという原初的な喜びに溢れている。結局のところ、写真が誕生した時点で映画の誕生も必然だったのだろう。昔の人は写真の発明に驚いたはずだし、それが動くことにも驚いたはずだ。現代人だと、スマホの登場やスマートスピーカーの登場に匹敵する。そういった先端のテクノロジーが、地道な手作業によって成り立っていたことは特筆すべきである。
黎明期の映画が見世物小屋の延長上にある胡乱な興行であるところも面白い。現代のような芸術ではなく、あくまで見世物なのだ。目の前に立っている人物がスクリーン上で動いている。スクリーン上で芸を披露している。観客は出し物のひとつとしてそれを見る。最新のテクノロジーによる奇術といったところだろう。そこから先の進化が期待されたが、シネマトグラフの登場によって敗北を喫してしまう。シネマトグラフのほうが動きが滑らかだった。発明としては自分たちのほうが先んじていたのに、富と名声は後発の者に持っていかれてしまう。スクラダノウスキー兄弟は「栄光なき天才たち」だった。そのショックや想像に余りある。日陰者に光を当てた本作は、敗者への温かみに満ちている。
インタビューを受けたルーシーは91歳。少女時代だった当時をよく覚えている。彼女も再現映像に負けず劣らずイノセントな語り口で、あの少女がそのまま年老いたのだと錯覚させる。遠い昔に亡くなった父親への愛情、手作業によるフィルムへの着色。歴史の当事者が出てきて証言したらそれだけで感動的である。そして、彼女を取り巻く撮影スタッフたちの温かい眼差しも良かった。