海外文学読書録

書評と感想

グザヴィエ・ドラン『マイ・マザー』(2009/カナダ)

★★★★

ケベック。17歳の少年ユベール(グザヴィエ・ドラン)は、母親(アンヌ・ドルヴァル)と二人暮らしをしながら学校に通っていた。ユベールと母親は些細なことからよく口論している。ユベールには同性の恋人(フランソワ・アルノー)がおり、それを知った母親はショックを受けるのだった。その後、ユベールの素行の悪さに手を焼いた母親は、彼を寄宿学校に追いやる。

これはすごかった。母親と息子が適切な関係を結ぶのは確かに難しくて、母子家庭なら尚更なのだろう。ユベールにとっては母親のがさつさが許せない。食べ方も、服装も、無責任な言動も。一方、母親にとっては息子がやることなすこと文句をつけてくることに苛立っている。両者とも無神経なところが共通していて、たとえば息子はレンタルビデオ店で45分も母親を車で待たせたりしている。また、母親に至っては息子を寄宿学校に放り込むのだからやりすぎだ。お互いに愛情はあるものの、肝心なところで相手を気遣ってない。むしろ、その愛情が――愛情がもたらす甘えが――捻じれに捻れて軋轢を生んでいる。

結局のところ、ユベールも母親も不器用なのだ。ユベールは息子の役割を上手く演じられないし、母親は母親の役割を上手く演じられない。もし父親がいれば2人の間の緩衝材になったろうけど、そこは母子家庭だからダイレクトに衝突してしまう。ユベールによると、「小さい頃は友達みたいな親子だった」そうで、そのままの意識で時が経つとこうなってしまうのだろう。親子関係は子供の成長に応じて更新し続ける必要があり、それが失敗すると取り返しのつかないことになる。

ユベールがウエディングドレス姿の母親を追いかける。母親は必死に逃げているため、その手を掴もうとしても掴めない。終盤でそういうイメージが挿入される。母親を女として見るあたり、『オイディプス王』【Amazon】的な倒錯を感じるけれど、ここで面白いのはユベールが同性愛者であるところだ。そこには性的な要素を排除した純粋な愛情が見て取れる。いずれにせよ、母親と息子は反発しながらも愛情は失っていない。従って、憎もうとしても憎みきれない。それがかえって2人の関係を複雑なものにしている。

母親が授業中の教室に乗り込んで「私は死人なの?」とユベールを罵ったシーンが可笑しかった。随分と大人気ない行動だけど、欧米人ならこういうことをするだろうと納得してしまう。日常に潜む異質さこそ外国映画を観る醍醐味ではなかろうか。