海外文学読書録

書評と感想

鈴木清順『河内カルメン』(1966/日)

★★★★

河内。百姓の娘・露子(野川由美子)は、工場の跡取り息子にして大学生の彰(和田浩治)に愛を告白される。ところが、その直後ならず者たちに拉致されて性的暴行を受けるのだった。帰宅すると今度は母親(宮城千賀子)が住職(桑山正一)に体を売っている。露子は逃げるようにして大阪へ。キャバレーでホステスをする。

原作は今東光の同名小説【Amazon】。

女の本質は「性」であり、女の「性」は金になる。そういう身も蓋もない事実をケレン味のある演出を交えて描いている。この映画、野川由美子の脚をやたらと映しているところが印象的だ。下手な濡れ場よりもよっぽどセクシーで目の保養になる。

のっけから輪姦を示唆するシーンをコメディ調で描いていて面食らう。この時点で映画がどういうトーンになるのか不安になったくらい。何せ、その前にあった露子と彰のやりとりが、まるで爽やかな青春ものみたいだったから。しかし、そこからはあまりブレず、風変わりな演出を交えながら露子の男遍歴を追っている。この男たちときたらみんな癖があって飽きさせない。

まず1人目。キャバレーの客は中年男らしいしぶとさを見せつつも、脂ギッシュな外見とは裏腹にやさしさを見せている。別れのシーンはせつなかった。2人目。美術家のメガネくんはまるで去勢された犬みたいで、いつぬいペニが発生するのか期待したほど。彼は露子のために何かと骨を折ってくれて最高だった*1。3人目。大学を中退した彰はすっかり山師になっており、資金繰りのために露子に体を売らせようとしている。これではせっかくの初恋も醒めてしまう。

その後も露子は別の男たちと出会うも、こいつらはまあ心身ともに小汚い爺さんで、出会う男のランクが下がっていってるような感じだった。基本的に本作は出てくる男が気持ち悪いので、それゆえに露子の美しさが際立っている。見ていて「こいつらとセックスするのは拷問だ」とため息をついたが、しかし自分もまあいいおっさんなので、若い娘からこう見られているのかと思うとぎょっとするのだった。汚い爺を前にすると自分の行く末を見せられているようでなかなかきつい。今後は女の子に対して性欲を剥き出しにするのをやめようと思う。

印象に残ってるのが、大阪に出てきた彰の住まいを外から映したショット。整備されてない小川が流れていて、その岸にボロ屋が建ち並んでいる。映ったのはほんの一瞬だったが、インパクトはかなり大きかった。当時の日本が開発途上国であったことをひと目で分からせている。

*1:露子から「恋人としては物足りなかったけど、友達としては満点だった」と言われている。