海外文学読書録

書評と感想

深作欣二『仁義なき戦い 代理戦争』(1973/日)

★★★★

昭和35年。山守(金子信雄)と袂を分かって独立していた広能(菅原文太)が、相手から復縁を求められたのでまた傘下に入る。一方、広能の兄貴分・打本(加藤武)は、村岡組の跡目に推されるも、優柔不断な性格からそれを断ってしまう。以降、山守と打本の対立が表面化し、事態は神戸も巻き込んで抗争にまで発展する。

『仁義なき戦い 広島死闘篇』の続編。

やくざたちの権謀術数が渦巻いていてとても面白かった。シリーズものって大抵は1作目がピークで、作品を重ねるごとに面白さが逓減していくものだが、このシリーズに関しては3作目でようやく盛り上がっている。シリーズの世評が高いのも納得で、前作で切らなくて良かったと思う。

他所の組を巻き込んだやくざの代理戦争が、米ソの冷戦に重ね合わされている。これはつまり、国家も暴力団も大差ないということなのだろう。組同士の結びつきはまるで国際外交のようで、利害に基づく複雑怪奇な関係は、見ている者をハラハラさせるような代物である。やくざ同士の対立は色々な組を巻き込む。それは暗殺に端を発した第一次世界大戦のようであり、そういう意味で本作はポリティカルスリラーのような趣がある。顔写真つきの人物相関図を作って存分に楽しみたいところだ。

菅原文太のやくざぶりが板についていて、曲者揃いの本作で主役を張れるのも伊達じゃないと思った。盗みを働いた舎弟を木刀でしばいたかと思えば、プロレス会場の控室でレスラー(力道山がモデルらしい)の頭をビール瓶でかち割っている。さらに、カタギの恩師が青年を紹介してきたシーンでは、いかにもやくざものの親分といった態度で青年と接していて、肩で風を切るような生き方が垣間見えた。本職のやくざが菅原文太に惚れるのも無理はない。彼の男ぶりは女よりも男が惚れるタイプのものである。菅原文太の存在が、シリーズを見る誘引になっていることは間違いない。

金子信雄のたぬき親父ぶりも相変わらずで、臆面もなく泣き落としに走るところは強すぎると感心した。生き馬の目を抜くこの世界で出世しているのも、こういう寝技を躊躇なく使えるからだろう。彼については、とりわけ酒の席で加藤武をいびっているところが面白く、調子ぶっこいてる金子と屈辱に身を震わせる加藤、両者の対比が最高だった。何となく『史記』【Amazon】や『三国志』【Amazon】に出てきそうな場面である。まるで歴史の逸話のようだった。

それにしても、本作の菅原文太はつくづく人間関係に恵まれていない。親父は手前勝手な金子信雄だし、兄貴は駄目やくざの加藤武だし、おまけに舎弟の川谷拓三が足を引っ張ってくる。唯一頼れるのが他所の組の梅宮辰夫で、彼の存在は見ているほうとしても心強かった。どの組織も人間関係ほど重要なものはない。そのことを思い知らされる。