海外文学読書録

書評と感想

長谷部安春『俺にさわると危ないぜ』(1966/日)

★★

ベトナム戦争を取材していたカメラマン・本堂大介(小林旭)が日本に帰国する。スチュワーデスの沢之内ヨリ子(松原智恵子)を誘ってクラブに行くが、ヨリ子は何者かに誘拐されてしまった。事件には女忍者のブラックタイツ軍団や不良外国人グループなどが関わっており、連中は何かを狙っている。本堂はその陰謀に巻き込まれるのだった。

原作は都筑道夫『三重露出』【Amazon】。

鈴木清順の助監督を務めた長谷部安春の監督デビュー作。都筑道夫らしい軽妙さは感じられるものの、全体的に単調で退屈だった。

ケレン味のある演出に鈴木清順の面影があってそこは面白い。たとえば、ヨリ子が逃げるシーンがイメージ映像として挿入されるが、これがカラフルな壁紙を破ってのシュールな映像で目を引く。また、本堂の部屋で会話するシーンでは照明がオレンジやグリーンなど、ショットによって変化している。さらに、撃たれた女を車に乗せるシーンでは夕日が不自然なくらい夕日の色をしている。総合すると色でアクセントをつけているようだ。長谷部安春が当初、清順美学の継承者として現れたのが興味深い。アニメでたとえると、幾原邦彦に対する古川知宏といったところだろう。弟子が師匠の模倣をする。こういうのを見ると微笑ましくなる。

ヨリ子が下着姿に剥かれて白い塗料を吹き付けられたのには笑った。どうやら全身を塗って皮膚呼吸できなくさせる拷問らしい。『007 ゴールドフィンガー』を参考にしているようだ。しかし、現代人の我々は知っている。全身の皮膚を塗り固めても窒息死しないことを。そもそもヒトは皮膚呼吸をほとんどしていない。肺呼吸のわずか0.6%である。従って塗料を吹き付ける拷問は成立しない。だからこのシーンはどうしても笑ってしまう。変なことしてるなあ、と。当時の観客はハラハラしながら見たのだろうが、現代の観客はその幼稚さに苦笑いしてしまう。

本堂が火炎放射器で敵の集団を牽制するシーンは迫力があった。当時はCGで誤魔化せないから命懸けである。思ったよりも炎が敵の近くまで寄っていて危なさそうだった。本作のアクションシーンの中ではここが一番の見所で、「俺にさわると危ないぜ」を体現していた。昔の役者は体を張っていたようで頭が下がる。

ヘリコプターを撃墜したシーンはどうやって撮ったのだろう? 爆発シーンは模型を爆発させたのだろうか? このシーンの凝っているところは海を燃やしているところで、ガソリンか何かを撒いたようである。そういう面倒なことを律儀にやっているところは感心する。

女忍者のブラックタイツ軍団がいい味を出していて、彼女たちの忍術には童心を刺激されるものがあった。ガムガム弾で目潰ししたり、レコードを手裏剣のように投げたり、忍者らしく荒唐無稽である。また、彼女たちはお色気要員も兼ねている。本堂を咥え込んでのオクトパスの術は山田風太郎の味わいがあった。その術を笑いガスで破るところがまたいい。

総じて退屈ではあるが見所がないわけでもない。そんな映画である。