海外文学読書録

書評と感想

中平康『危いことなら銭になる』(1962/日)

★★★

反社組織が紙幣印刷用紙を強奪した。ガラスのジョー(宍戸錠)、計算尺の哲(長門裕之)、ダンプの健(草薙幸二郎)の3人が、偽札づくりの名人(左卜全)を組織に売り込もうとする。やがて武道の達人・秋山とも子(浅丘ルリ子)もジョーと行動を共にするようになり、名人の身柄争奪戦を繰り広げることに。

原作は都筑道夫『紙の罠』【Amazon】。

今日の邦画に繋がる漫画っぽい演技が味わい深かった。正直、今日の邦画は癇に障るけれど、本作はそうでもない。レトロ映画という枠で観てるせいか、かえって面白いと思ってしまう。

ガラスのジョーは紫のスーツを着用し、緑の飾りのついた黒いハットをかぶっている。おまけに愛車は赤いメッサーシュミットだった。このお洒落な造形がたまらない。ひと目で人物が判別できるうえ、現実に存在しなさそうな出で立ちが好奇心を刺激する。おまけに、ジョーには致命的な弱点があった。彼はガラスの引っ掻く音を聞くと取り乱すのだ。これはもう完全に漫画である。ガラスのジョーを気に入ってしまった僕は、昨今の漫画原作の邦画をバカにできないと反省する。だって両者に本質的な違いはないのだから。たとえば、山﨑賢人と宍戸錠にいったい何の違いがあるというのか。これはちょっと困ったことになった。

浅丘ルリ子が武道の達人(柔道二段合気道三段)を演じている。中盤では複数の男を相手に派手なアクションをこなしていた。このシーンは拙いながらも頑張っていて、カット割りで誤魔化さないところが潔い。浅丘ルリ子は動きからして明らかに素人なわけで、女優にこういう体当たりの演技をさせるのかと感心した。

武智豊子が相変わらず強烈な老婆を演じている。独特のがなり声が印象的だ。本作では二丁拳銃を使ってガンスピンを披露しているのだけど、これがまた微妙に上手い。練習の跡が窺えてなかなか良かった。

計算尺の哲がズボンを脱いで赤いパンツを晒したシーン。そこでダンプの健が口を開いくも、セリフがミュートされていて何も聞こえなかった。いったい何て言ったのだろう? あと、敵のボスが拘束した4人に余計なことをぺらぺら喋るのが漫画っぽいし、取引現場をロングショットで映して両陣営の位置を矢印で示しているのも漫画っぽい。本作の美点は最初から最後まで漫画に徹しているところだ。おかげで気軽に観ることができる。

悪役がトカレフを所持している。当時トカレフは珍しかったらしい。僕が子供の頃、日本の裏社会はトカレフで溢れていたと記憶している。60年代が普及の始まりだったのだろうか。こういったディテールに「歴史」を感じる。