海外文学読書録

書評と感想

山本寛『薄暮』(2019/日)

★★★

福島県いわき市。高校生の小山佐智(桜田ひより)は恋愛に興味がなく、人間関係にも冷淡だった。彼女は音楽部でヴァイオリンを弾いている。音楽部では学祭に向けてベートーヴェン弦楽四重奏曲の練習をしていた。そんなある日、帰り道のバス停でスケッチブックを持った高校生・雉子波祐介(加藤清史郎)と出会う。彼は付近の風景を描いていた。

ヤマカンはTwitterでの奇行が目立つけれど、本作を観る限りではまだまだアニメが作れることが分かった。本作は新海誠京アニのオマージュなのだろう(『フラクタル』【Amazon】がジブリのオマージュだったように)。内容はよくあるボーイ・ミーツ・ガールの青春もの。背景の作画にやたらと力が入っているところが特徴だ。さらに、『響け!ユーフォニアム』【Amazon】を意識したかのような演奏シーンもある。

通常の半分程度しか時間のない映画なので、全体的に詰め込みすぎである。しかし、最近のテレビアニメもその傾向があるので、一応は許容範囲だった。特筆すべきは、背景が綺麗なところだろう。描画から色彩設計まで新海誠に匹敵するクオリティだった。田舎の風景なんか、『のんのんびより』【Amazon】をより繊細にしたような感じで見惚れてしまう。特に夕暮れの空の色合いが芸術的だ。正直、ストーリーなんかどうでもいいと思えるくらい作画が際立っている。

駅のホームで線路を挟んで佐智と祐介が向かい合うショットがいい。2人の距離のもどかしさを美しい作画で表現している。逆に、学校の屋上で祐介が告白するシーンはいまいちで、星空をバックにした煽りショットがあざとくて見ていられなかった。ここは星空を強調し過ぎである。あと、出会ったばかりの2人が帰りのバスでいきなり隣り合って座っているところが可笑しかった。バスがガラガラなだけにその特異さが目立っている。

背景に力を入れているぶん、人物の描画にはあまり労力を割けなかったようで、演奏シーンは『響け!ユーフォニアム』に比べるとだいぶ物足りなかった。静止画は模倣できても動画は模倣できないということだろうか。京アニの偉大さがよく分かる。

ストーリーについてはよくある青春ものなので言及すべき点がない。東日本大震災を絡めているのが珍しい程度。佐智の夢の中に福島の原発が出てくる。といっても、これも薄いスパイスみたいなもので本質的に何かを表しているわけではない。福島が舞台だから入れておこう、といった感じの軽いアリバイ作りだった。