海外文学読書録

書評と感想

鈴木清順『東京流れ者』(1966/日)

★★★★

不死鳥の哲こと本堂哲也(渡哲也)は、解散した倉田組の元組長(北竜二)に従って堅気の仕事をしていた。ところが、ビルを巡って大塚組との抗争に巻き込まれる。雪国に流れた哲也だったが、蝮の辰(川地民夫)が命を狙って追いかけてくる。哲也は恋人の千春(松原智恵子)と離ればなれ。また、流れた先では流れ星の健(二谷英明)の世話になる。

鈴木清順はジャンル映画の枠組みでかなり自由なことをやっているのが面白い。『殺しの烙印』は自由すぎて訳が分からなかったが、本作くらいだったらその演出に驚きつつ楽しんで観ることができる。

ストーリーはやくざ映画のテンプレで特に言うこともない。その代わり、舞台設定やカット繋ぎなど、視覚的な部分でかなり奇抜なことをしている。

序盤はヴィヴィッドカラーなジャズ喫茶とビルの洋風壁画が目立っていたし、終盤は一面の白い屋内で銃撃戦を繰り広げていて特別感がある。カット繋ぎも、銃撃戦と日常をダイレクトに繋いでその過程をすっ飛ばしているところがクールだ。また、小道具にも特徴があって、敵事務所の赤い電話がまるでおもちゃみたいで可愛かった。他にも、女がオバQが表紙の週刊少年サンデーを読んでいたり、スポンサーのヘアドライヤーを唐突に出してきたり、所々でちぐはぐさを感じさせる。作家性というか、細かいところに遊びを入れているところが面白かった。

ストリップショーの乱闘ではきちんと人員を投入していて、本作は低予算の穴埋め映画じゃなかったのかと驚いた。金髪の外国人が多数出演していたが、いったいどういう伝手なのだろう? とにかくこのシーン、数の迫力というのは確実にあって、大人数が暴れる様子は見応えがあった。水商売の女性陣も活躍している。

クライマックスは白い屋内での銃撃シーンだろう。ここは本当に白で溢れていてすごい。テーブルクロスも白ならピアノも白。主人公の哲也も白ずくめで、白いジャケットに白いズボン、白いシャツに白いネクタイと明らかに狙っている。また、ヒロインの千春も白い衣装だ。ここで色が着いてるのは敵だけである。おそらくこれは主人公とヒロインの純真さを表していて、だから2人は白ずくめなのだろう。哲也は仁義を重んじる性格をしているし、千春はそんな哲也に一途な愛情を抱いている。ともあれ、この真っ白な空間は目に見えて異質で特別感があった。

ヒロインを演じた松原智恵子は絶世の美女である。しかし、通常の映画と比べて出番が少ないのはもったいなかった。この頃の日活って美人女優が多すぎではなかろうか。

鈴木清順は本作の翌年に『殺しの烙印』を撮って日活を解雇されている。行き着くところまで行ったということだろう。リアルタイムで追いたい監督だった。