海外文学読書録

書評と感想

柳瀬観『探偵事務所23 銭と女に弱い男』(1963/日)

★★★

私立探偵・田島(宍戸錠)が調査のため宮城鉄砲店に潜入する。そこの店主・宮城(葉山良二)は沖縄から銃を密輸していた。組織の黒幕には射撃の名手・劉(小池朝雄)がいる。宮城の情婦にしてボスの万里(星ナオミ)は田島に惚れて宮城を袖にする。一方、田島の秘書・千秋(笹森礼子)は一味の店に勝手に潜入調査していた。幹部の内田(江角英明)と万里は意外な関係で……。

『探偵事務所23 くたばれ悪党ども』の続編。

「銭と女に弱い男」という副題のわりに女は添え物みたいな扱いで、実際は男同士の友情が前面に出ていた。笹森礼子がヒロインのはずだが出番は少ない。むしろ、星ナオミのほうが映っている時間は長かった。監督の柳瀬観鈴木清順の弟子のようで、本作を監督したのはその縁だろう(前作は鈴木清順が監督だった)。前作がカラーで本作がモノクロなのは大人の事情が絡んでいたのかもしれない。カラーは経費がかかるから。

銃の密輸組織が日本の暴力団じゃないところが大きな特徴だ。組織の正体は香港の秘密結社である。しかも、なかなか凝った背景があって、元々は国民党が反共組織として金を注ぎ込んだのが母体だった。ところが、共産党が天下を取ったため香港に逃げ込んだ。そういう経緯が語られている。日本で暗躍する密輸組織が中国系なのが興味深い。というのも、現代でも中国系マフィアが日本で活動しているから。最近では2022年に池袋高層ビルで乱闘事件を起こしていた。ニュースによると、100人規模で集まっていたのだからすごい。今も昔も中国系マフィアが日本で幅を利かせている。そのことが透けて見えたのが面白かった。

田島が射撃のオリンピック選手という設定になっている。確かに日本で射撃が上手い民間人はそういう特殊な境遇の人だけだろう。そして、このオリンピック選手という設定はただの思いつきではなく時勢が絡んでいた。というのも、ラストで田島がオリンピック募金に寄付をするシーンが出てくる。そう、実は本作公開の翌年に東京オリンピックが開催予定だったのだ。リアルタイムで観ていた人にとっては当然の前提だったろうが、現代人にとっては60年も前の話なので気づかない。募金のシーンでようやく気づいた。つまり、田島がオリンピック選手という設定は東京オリンピックにあやかっていたのだ。オリンピック選手が銃撃戦なんてしていいのかとツッコミたくなるが、そんなもんバレなきゃいいのである。犯罪とはバレなければ犯罪にならないわけで、僕も犯罪するときはバレないようにやろうと思う(やらないけど)。

序盤で田島が、結婚とは子供の欲しい奴同士でするもの、みたいなことを言っている。だから田島は独身主義を貫いているのだが、それにしても、これってモダンな考え方ではなかろうか。当時は今よりも結婚圧力が強かったはずだから、リアルタイムで観た人と現代人とでは受け止め方が違っただろう。また、本作は登場人物がやたらとタバコを吹かしている。あっちでスパスパ、こっちでスパスパ。当時は今と違って喫煙が当たり前だった。分煙なんて洒落臭いものも存在しない。時代の変化を実感する。