海外文学読書録

書評と感想

鈴木清順『探偵事務所23 くたばれ悪党ども』(1963/日)

★★★

深夜の立川基地近辺。暴力団の武器取引の現場を謎の組織が急襲した。ところが、そのメンバーの一人が逃げ遅れて逮捕されてしまう。ニュースを知った私立探偵・田島(宍戸錠)は警察署に行き、警部(金子信雄)におとり捜査の申し出をする。田島は謎の組織に入り込むも、そこのボス・畑野(信欣三)と騙し合いを演じることに。その後、田島は畑野の愛人・千秋(笹森礼子)に目をつけて……。

原作は大藪春彦探偵事務所23』【Amazon】。

主演の宍戸錠は後のハードボイルド映画に比べると洒脱で、この頃の演技のほうが魅力的だ。あと、ヒロインは笹森礼子なのだが、正直、踊り子を演じた星ナオミのほうが美人で輝いていた。役柄のせいとはいえ、笹森礼子は何か暗い。

田島と畑野の騙し合いを軸にしたストーリーで、面白さとしては可もなく不可もなしだった。けれども、そこへいくつも見せ場を挿入してくるところはさすが娯楽映画である。本作を観ると、映画においてストーリーとは見せ場を作るための導線に過ぎないことが分かる。こういう職人芸は嫌いではない。

サリーのステージに田島が上がって一緒にミュージカルをやるシーンがいい。サリーが客席にいた田島を歌で糾弾するのに対し、田島は正体をバラされたくないから自分もステージに上がって歌で誤魔化す。その際、一緒にダンスもするのだが、これがまたイケオジらしからぬチャーミングぶりで思わず頬が緩んだ。おっさんが可愛く見えるのは貴重で、このシーンはガンアクションよりもよっぽどいい。本作で一番の見せ場だと思う。

数でゴリ押しするところも本作の魅力だ。たとえば序盤、警察署の前にやくざが50人くらい詰め寄っているところが可笑しかった。これってたぶん当時ですらあり得ない状況だろう。でも、そういうあり得ない状況だからこそ見ていて可笑しいわけで、画面に映された非日常が一種の「祭り」のような錯覚を引き起こす。しかも、この状況をテレビが生中継しているのだからお祭り感も半端ない。非日常こそが最大の娯楽であることを示している。

畑野の組織は暴力団の上前を撥ねているだけだから、当初は取り締まる必要もないだろうと思った。要は、悪を持って悪を制すである。ところが、よく考えるとこの組織も暴力団から奪い取った武器をどこかに横流ししている。カタギから見れば暴力団と大差ないわけだ。それが証拠に田島が内部に入り込んでみたら、ボスや構成員がもろに半社っぽいのである。田島と畑野が騙し合いを繰り広げつつ、最終的には悪と悪の大規模な同士討ちにまで持っていく。一連の流れは爽快で、やくざが死ぬことほどすかっとするものはないと実感した。

この時代の炎はCGじゃないので炎上シーンは緊張感がある。「火の取扱いにはご用心」と心の中で呟いてしまう。