海外文学読書録

書評と感想

澤田幸弘『反逆のメロディー』(1970/日)

★★★

淡野組が解散してフリーになった哲(原田芳雄)は、立花組が取り仕切る地方都市に行く。ところが、当地では立花組の上に矢東会が君臨していた。哲はゲバ作(佐藤蛾次郎)という流れ者と一緒になり、立花組から矢東組を排除する。矢東組の幹部・星野(地井武男)は哲を敵視。また、淡野組の元組長(須賀不二男)を付け狙う滝川(藤竜也)も登場する。亜紀(梶芽衣子)は星野の愛人で……。

『野良猫ロック 暴走集団'71』原田芳雄が主演になったのは本作の影響っぽい。素肌にGジャン、伸ばしっぱなしの髪(もみあげがやばい!)、若者向けのサングラス。そんな出で立ちでジープを乗り回している。アメリカン・ニューシネマのアウトローみたいでめちゃくちゃ格好いい。そりゃ彼みたいな新時代のシンボルが出てきたら主演に据えるしかないだろう。やくざ映画なのに主演がやくざに見えないところがまた面白いのだ。そして、例によって終盤の討ち入りも拳銃ではなく刃物を使っている。アクションもなかなかだった。

地井武男は今まで見てきた中で一番いい。やくざを演じているのだが、本当にやくざにしか見えなかった。あんなオラついた態度ですごまれたら小便をちびってしまう。若者らしく常に何かに苛立っていて反骨精神が旺盛。しかもそれでいて、ダチと認めた者には義侠心を発揮する。男が男に向かって「お前が大好きなんだよ」と言うのはすごすぎる。我々のような凡人では恥ずかしくて口に出せない。彼が原田芳雄と腕時計を交換するシーンは名シーンだろう。死に際でもダチのことを気にしているのが良かった。

佐藤蛾次郎原田芳雄の相棒役としてキャラが立っていた。住所不定無職。分かっているのは故郷が北海道室蘭市ということだけ。バイクで流れてその日暮らしの刹那的な生き方をしている。そんな彼にも若者らしい破壊衝動があった。トルコ風呂に強盗に入った際は嬉しそうな顔をしてダイナマイトを爆発させている。彼も原田と同様、アメリカン・ニューシネマのアウトローなのだ。ポジションとしては地井武男が仲間になったあたりでお役御免になってしまうが、それでもちんちくりんな風貌ゆえか、相棒としての爪痕は残している。地井武男と同じくらい彼も素晴らしかった。

藤竜也梶芽衣子はいつも通りだった。特筆すべきは梶芽衣子地井武男の間にベッドシーンがあることで、そういうシーンもできるのかと思った。梶芽衣子が男同士の絆を認め、男女の仲はあっけないと去っていくシーンは忘れられない。本作はやくざ映画であると同時に若者映画であり、また、男同士の絆を描いた映画なのだ。現代ではホモソーシャルが忌避される傾向にあるが、やはり男同士の友情は尊いのである。上部構造であるやくざ社会が腐っているからこそ個人間の友情が輝く。本作は原田芳雄佐藤蛾次郎地井武男の関係が良かった。

木原というマル暴の刑事を青木義朗が演じている。マル暴らしく強面で迫力があった。やくざと渡り合うにはこれくらい貫禄がないといけないのだろう。本作は原田芳雄を始めとして全体的に俳優陣がすごい。正直、ストーリーはどうでもよくて、ただただ俳優の格好良さを堪能した。