海外文学読書録

書評と感想

長谷部安春『野良猫ロック マシン・アニマル』(1970/日)

★★★

横浜。岩国からノボ(藤竜也)とサブ(岡崎二朗)がやってくる。2人は米軍の脱走兵・チャーリー(山野俊也)をスウェーデンに逃がそうとしていた。その資金調達のためにLSDを500錠所持している。マヤ(梶芽衣子)率いる不良少女グループは当初3人と対立するが一転して協力関係に。一方、佐倉(郷鍈治)率いるドラゴンとは揉めることになった。ドラゴンの黒幕には半身不随の少女・ユリ(范文雀)がいる。

野良猫ロックシリーズ第4弾。

安くて早くてそこそこ美味い映画を目指しているのは伝わってきた。脱走兵やLSDが出てくるが、それらを深めていこうという気はさらさらない。ベトナム戦争やゴーゴーバー、そこで演奏されるポップ音楽など、流行り物を積極的に取り込んでいこうという意欲が窺える。そういうインスタントなところも含めてカウンターカルチャーなのだろう。本作に刻印された文化・風俗は現代人が見ると新鮮だ。結果的には70年代の民俗資料になっている。

白と黒で統一された衣装の梶芽衣子が格好いい。黒いハットに白いパンタロン、腰帯は黒である。こういうファッションが似合うのも顔立ちが端正で、なおかつ黒髪ロングだからだろう。梶芽衣子は主演を張るだけあって貫禄があった。

一方、本作の藤竜也はぱっとしない。いつものサングラスではなく普通の眼鏡である。今回は善玉を演じているため持ち味の傲岸不遜なキャラが封じられていた。役柄とはいえ実にもったいない。

藤竜也の代わりに悪役を演じたのが郷鍈治である。声がめちゃくちゃ渋かった。調べたら宍戸錠の弟らしくて納得である。兄弟揃ってイケボなのが羨ましい。サングラス姿も似合っていた。

范文雀は紫のイメージカラーを与えられている。部屋も衣装も紫が基調である。彼女は半身不随の娘を演じていた。ドラゴンの黒幕らしく落ち着いていて、誘拐されてもまったく動じない。梶芽衣子の向こうを張るクールなキャラを好演していた。

脱走兵は白人という設定だが、なぜか日本人の山野俊也が演じている。どう見ても白人に見えない。予算をケチったのだろうか。劇中にガチの白人が出てくると殊更浮いて見えるので、ちょっとこれはミスキャストだと思う。日本語で話しかけられても頑なに英語を喋っているのは面白かったけど。

公道をバイクで走るシーンはきちんと制限速度を守っていて微笑ましかった。マヤ率いる不良少女グループはHONDAの販売店から50ccのバイクをレンタルし、列をなして走っている。50ccだから制限速度は時速30km。明らかにのろい。また、佐倉率いるドラゴンも公道では安全運転だった。コンプライアンスを守っていて大変けっこうである。

チャーリーが白昼堂々米軍の憲兵に撃たれたのはやばかった。日本の主権がアメリカに侵された瞬間である。当時の観客はツッコまなかったのだろうか。現代の国家機関が不良集団と同じくらい無法を働いていて面白い。

ゴーゴーバーでのライブ映像は一見の価値がある。どこかのバンドが格好いいグループ・サウンズを演奏していた。そして、ステージではミニスカのお姉ちゃんが踊っている。全体的にゴキゲンな空間だった。こういうところで飲む酒は美味いのだろう。70年代の風俗はとてもいい。