海外文学読書録

書評と感想

岡本喜八『独立愚連隊西へ』(1960/日)

★★★★

北支戦線。歩兵第四六三連隊が八路軍の攻撃を受けて玉砕、軍旗が行方不明になった。上層部から命令を受けた左文字少尉(加山雄三)が、厄介者たちを率いて軍旗捜索の任務に就く。隊には戸川軍曹(佐藤允)や小峰衛生兵(江原達怡)などが随行していた。

西部劇風だった『独立愚連隊』と比べると本作は戦争映画に寄せていて、コミカルでありながらも軍隊の不条理を描く絶妙のバランス感覚を見せていた。大枠にあるのは軍規の絶対性で、融通の利かない軍隊の硬直性は『神聖喜劇』に通じるところがある。その一方、左文字少尉率いる小隊は厄介者たちで構成されているがゆえに自由であり、彼らの奔放な振る舞いが期せずして日本陸軍への風刺になっているのだった。この小隊はさしずめ軍隊ごっこをしている悪ガキといった風情である。戸川軍曹を始めとして皆いい笑顔を見せており、その豊かな表情の数々は戦場の陰鬱さを吹き飛ばす独特の雰囲気を醸し出していた。

また、軍旗を巡る攻防を戦後の価値観で脱構築しているところも見逃せない。上層部は軍旗の奪還を至上命令にしていたのに対し、現場の左文字少尉は連隊旗手を助けるのが第一目的になっている。このヒューマニズムは見ているほうとしても安心できるし、「軍旗なんて所詮はただの布」という達観も爽快である。だいたい一般人からしたら、軍旗を隊の象徴として扱うなんて馬鹿馬鹿しいことこの上ない。ましてそんな布切れのために命を賭けるなんて常軌を逸している。軍旗よりも人間の命のほうが重いと考えている左文字少尉は異端者だけど、しかし、それこそが民衆の嘘偽らざる本音だろう。象徴とはとどのつまり虚構に過ぎず、その射程は日本を象徴する天皇まで届いている。

参謀のまずい作戦のせいで捕虜になった部下が、解放されて帰ってくるなり「腹を切れ」と言い渡される。その一方、当の参謀はちゃっかり出世していた。こういう不平等って日本陸軍の典型例ではなかろうか。部下の命を使い捨てにすることで利益を得る。本作は端々に軍隊の不条理が見え隠れしていて、日本陸軍が組織として駄目駄目だったことが示されている。これじゃあ、戦争に勝てるわけがない。

フランキー堺八路軍の将校を演じている。ただのコミックリリーフかと思いきや、終盤で胸熱なやりとりを見せていて、フィクションならではの理想像を体現していた。この部分、現実にはあり得ない展開だけど、その能天気なヒューマニズムは嫌いではない。本作はバランス感覚に優れたいい映画だと思う。