海外文学読書録

書評と感想

『バンド・オブ・ブラザース』(2001)

★★★★

ノルマンディー上陸作戦の2年前。アメリカ陸軍第101空挺師団に所属するE中隊は、ジョージア州タコタ基地で厳しい訓練を受けていた。隊は指揮官のソベル中尉のスパルタ式訓練によってもっとも優秀な部隊となっていたが、あることが原因で隊員たちは指揮官に不満を募らせる。訓練を終えたE中隊は、遂にノルマンディー上陸作戦の日である1944年6月6日を迎えるのだった。

原作はスティーヴン・アンブローズの同名ノンフィクション【Amazon】。

BBCとHBOによる戦争ドラマ。1944年6月のノルマンディー上陸作戦から、1945年5月のドイツ降伏までを全10話で描いている。映像はハリウッドの主流映画と比べても遜色がなく、さすがのクオリティといった感じだった。

内心では戦争は良くないと思いつつも、実は戦争映画を観るのは好きで、このアンビバレントな趣味嗜好には我ながら困惑している。人間の残酷さを嫌う一方で、ドラマにはそれを望んでいるのだ。戦場には絶対に行きたくないけれども、その非日常空間は体験したい。銃弾や砲弾の飛び交う戦闘シーンを堪能したい。こういうのって小説だと限界があって、やはり金のかかった映像で観るのが一番だ。本作はそんな僕の欲求を十分満たしてくれるもので、尺はおよそ10時間、壮大な叙事詩を観たような気分になった。

タイトルでも示される通り、戦争を通じて兵士たちが育む絆、当事者にしか分からない連帯感が描かれている。これはまるで麻薬のように作用していて、兵士たちは重傷を負っても、一様に送還されるのを嫌がっている。どう見ても戦闘継続は不可能なのに、それでも戦場にいたがっているのだ。仲間たちを置いてはいけない。自分も部隊に貢献したい。彼らは健気にもそう思っている。絆という麻薬は時に自分の命を軽んじるのだから恐ろしい。これはこれで立派だけど、僕みたいに保身に汲々としている人間には厳しい環境だと思った。

軍隊において一番駄目な人材は無能な指揮官のようだ。なぜかというと、部下を大量に無駄死にさせるからである。兵士たちもいくら命を捨てる覚悟があるとはいえ、道理に沿わない命令は聞きたくない。最善を尽くした作戦に従事したい。実際、E中隊も指揮官の失策のせいでバタバタ死んでいく場面があって、これでは兵士たちも浮かばれないと思った。ホント、無能な指揮官は駄目だ。そして、これは平時の会社組織にも言える。つまり、無能な上司は部下にもっとも嫌われる。有能な上司が慕われるのは会社も軍隊も同じで、組織における人事の重要性が窺える。

無抵抗の捕虜を虐殺したり、市民から理不尽に略奪したり、敢えてアメリカ兵の暗部を描いているところは、今日的な戦争ドラマという感じがする。それと、第5話はトム・ハンクスが監督を務めているのだけど、劇中にタイプライターで小説を書くエピソードがあって、これは彼らしいと思った。というのも、トム・ハンクスはタイプライターへの偏愛を滲ませた短編集を発表しているのだ。日本語訳は『変わったタイプ』。この頃から作家性が全開になっていて興味深かった。

なお、同じHBO制作の『ザ・パシフィック』では太平洋戦線を扱っている。