海外文学読書録

書評と感想

岡本喜八『独立愚連隊』(1959/日)

★★★★

昭和19年の北支戦線。従軍新聞記者の荒木(佐藤允)が、鼻つまみ者を集めた独立愚連隊に流れてくる。彼は当地で起きた見習士官の心中事件に興味をおぼえていた。一方、荒木には彼を想う慰安婦のトミ(雪村いづみ)がおり、こっそり後を追いかけてくる。

日本でこういう西部劇が作られていたとは知らなかった。十五年戦争の中国大陸を舞台にしているあたり、目のつけどころがいいと思う。八路軍は敵対的なインディアン、馬賊は友好的なインディアンといったところだろう。しかし、途中までドラマは日本軍の内部に潜む「悪」に焦点を絞っており、インディアンは終盤に景気づけで出てくるくらいである。終盤の戦闘はエンタメとしては面白いのだけど、一方でこの描き方は物議を醸しそうだと困惑した。というのも、我々には侵略者という負い目があるから、現地人を景気よくなぎ倒していくのには若干の後ろめたさがあるのだ。とはいえ、寡兵をもって大兵を打ち倒す様は爽快で、正しくエンタメをしているのだから困ったものである。

途中までは流れ者の荒木が探偵をしていて、軍隊内の不正に肉薄するところはこちらを引きつけるものがあった。どちらかというと荒木は、エルキュール・ポワロのような本格探偵よりも、サム・スペードのようなハードボイルド探偵に近い。やってることは帷幄での推理ではなく、人と人とのぶつかり合いである。しかも、荒木は戦場に似つかわしくない笑顔を振りまいていて、いかにも光属性といった感じの陽気な人物である。そして、この陽気さは他の兵士にまで波及しており、独特の軍隊像が作られているのだった。本作の兵士たちには「死ぬのはごめんだ」という意識が通底している。これは「お国のために死ね」という公式のスローガンと真っ向から対立していた。本作は戦時中を舞台にしつつも、戦後の価値観で脱構築しているのだから安心して見ていられる。この味付けがとても魅力的だった。

特段リアルな軍隊を描いているわけではないのだけど、それでも不思議と迫真性があって、昔の俳優はちゃんと兵士を演じることができたのだなと感心した。現代は良くも悪くも漫画的な社会なので、戯画化するにしてもこういう方向性は無理だろう。そもそも兵士を演じられる俳優がいない。日本映画が痩せていったのも漫画やアニメの伸張と無関係ではないので、アニメに親しんでいる現代人としては複雑な気分である。

三船敏郎が気の狂った士官を演じている。出番は少ないものの、強烈なインパクトを残していた。