海外文学読書録

書評と感想

リチャード・ブルックス『弾丸を噛め』(1975/米)

弾丸を噛め

弾丸を噛め

  • Gene Hackman
Amazon

★★★

20世紀初頭のアメリカ西部。新聞社が賞金2000ドル、走行距離1120キロの耐久レースを企画した。サム・クレイトン(ジーン・ハックマン)、ルーク・マシューズ(ジェームズ・コバーン)、ケイト・ジョーンズ(キャンディス・バーゲン)ら8人が馬を用意して参加する。

『スティール・ボール・ラン』の元ネタ。

この内容で2時間は長いが、大自然を始めとする景観は抜群に良かった。鮮やかな色使いでありながらも微妙に古臭いところがツボにはまる。こういう「味がある」映像は現代で再現するのは難しくて、どうしても作為的になってしまう。時代劇の映像って鮮明でも綺麗すぎても駄目で、ほどほどにくすんでいるほうがいいのだ。そこにはデジタルのフィルターでは出せない渋みがある。

鉄道の高架下を馬で通り過ぎるシーン、夕陽を背景に馬で前進するシーンなど、印象に残る絵がいくつもある。とりわけ工夫を感じるのがスローモーションの使い方で、こういうのはモノクロの西部劇では見られなかったと思う。先行する人馬をスローモーションで追い越すシーンはなかなかエモかった。また、同じ画面に2人の人物を収めつつ片方だけスローで表現するところも驚く。冷静に考えると物理法則に反した不自然な映像なのだけど、劇的な場面を彩る演出としてはすこぶる目立っていた。

成り行きでレースに参加したクレイトンはアメリカ人らしくない性格をしていて、当初はトップを取ることに興味がなかった。動物愛護の精神もひときわ強い異色の主人公である。それに対して他の参加者は闘争心に溢れていて、皆が皆「自分が勝つ」と確信を抱いている。死にかけの病人ですら勝利を、英雄になることを目指して参加しているのだから恐ろしい。率直に言って、アメリカ人の強欲さ・我の強さにはどん引きである。しかし、こういう人間たちでひしめいているからこそ、アメリカは世界一の超大国になれたのだ。資本主義の根幹をなす競争の原理。そこにはプロ倫【Amazon】だけでは説明がつかない強烈な上昇志向が見て取れる。

ところで、『週刊少年ジャンプ』では古来、「友情・努力・勝利」が標語として掲げられてきた。今思えば、これも資本主義の精神だった。日本にせよアメリカにせよ、我々資本主義国家の人間は、子供の頃から娯楽を通じてそういったイデオロギーを植え付けられている。いい加減、回し車をせっせと走るのも疲れたので、ここらで休憩させてほしいものである。