海外文学読書録

書評と感想

パティ・ジェンキンス『ワンダーウーマン』(2017/米=中国)

★★

アマゾン族の王女ダイアナ(ガル・ガドット)は女性だけの島セシミッラで暮らしていた。島民は軍神アレスの襲撃に備えて武装している。そんななか、島にスティーブ・トレバー(クリス・パイン)が迷い込んでくる。折しも外の世界は第一次世界大戦。トレバーは米軍でスパイの任務に就いていた。ダイアナは戦争を終わらせるためトレバーと外の世界に旅立つ。

ガル・ガドットのルックスがいいところ以外はほぼ見るところがなかった。島から出るまで40分もかけているのが長すぎるし、ラスボスとのバトルもしょぼい。映像も最近の映画らしく変なフィルターがかかっていて違和感がある。映画を見ているというよりはゲームを見ているような感じだった。

女性ヒーローが主人公の場合、女性性をどう扱うのかが難しいような気がする。女性性を前面に出すとPCにそぐわないし、かといって丸っきり無視するわけにもいかない。女性だけの島セシミッラは、マッチョな価値観が浸透していてほとんど男性的だ。島民はみな武装して暴力に秀でている。彼女たちは神によって人間離れした膂力を与えられていた。その一方、どうやって生殖しているのかは分からない。ダイアナはゼウスと女王の子供らしいからおそらく有性生殖なのだろう(当初、粘土から造られたと説明された)。しかし、そうするとどうやって現在の人口を維持しているのか分からない。島は霧によって隠され、外の世界から人が来ないから男は供給されないのである。ダイアナによると、快楽のためのセックスはある。しかし、生殖のためのセックスはあるかどうか分からない。ここをはっきりさせると都合が悪いから敢えて伏せているような印象だ。しかもそれでいて、どうやら母性はあるようなのである。ロンドンに出たダイアナは路地で出会った赤ん坊を可愛がっていた。方や暴力に秀でた男性性。方や平和を愛する女性性。まるで男性と女性のいいとこ取りをしているようである。

ラスボスの軍神アレスが神のくせに弱いのだが、ギリシア神話でも弱かったので史実通り(?)といったところだろう。神を倒せるのは神、もしくはゴッドキラーという武器だけなので人間には倒せない。だから人間よりは確実に強い。しかし、ダイアナは神の子なのでアレスを倒せるのだ。ラスボス戦はあることがきっかけでダイアナが覚醒する。クリリンの死で覚醒した孫悟空のようにパワーアップする。そのおかげでワンパン勝利するのだから安っぽい。ラスボス戦は大雑把すぎてアクションシーンの中でもいまいち印象に残らなかった。

一番良かったシーンは、塹壕戦の最中、ダイアナが盾で弾丸を防ぎながら敵陣に突撃するシーン。ダイアナには近代兵器が効かないのだというすごみがある。腕の防具でも弾丸を弾いていたし、総じて抜群の反射神経を見せつけるところがいい。1対1のバトルより戦場での立ち回りのほうが見応えがあった。

ドクター・ポイズン(エレナ・アナヤ)が防毒マスクで防げない新型の毒ガスを開発する。それをダイアナに使うのかと思いきや、休戦協定を結ぼうとする味方軍人に対して使っていた。以降、その毒ガスは物語から消える。この毒ガスをもう少し有効活用してほしかった。同時に開発した強化ガスも出番は一瞬だったし。ドクター・ポイズンはダイアナと対比させるための女性だが、いまいちその役割を果たしていなかった。