海外文学読書録

書評と感想

荒木飛呂彦『ジョジョの奇妙な冒険 Part8 ジョジョリオン』(2011-2021)

★★

M県S市杜王町。3.11の震災によって地形が変化し、海岸に沿って「壁の目」と呼ばれる隆起した土地ができていた。広瀬康穂がその「壁の目」に埋もれていた青年を発見する。彼は記憶喪失だった。青年は地元の名士・東方家に引き取られ、東方定助として暮らすことになる。身元の手掛かりとなるのが吉良吉影という男で……。

全27巻。

『ジョジョの奇妙な冒険 Part7 スティール・ボール・ラン』の続編。

東方定助の謎で引っ張っていた前半は面白かったけれど、後半、新ロカカカの争奪戦になってからはつまらなくなった。この第8部は特にスタンドバトルに魅力がないので、導線となるストーリーに何らかの誘引がないと読む気が失せてしまう。全体の長さも問題で、第3部が全17巻、第4部が全18巻であることを考えると、全27巻の本作は格段に長い。正直、20巻あたりで読むのを止めようか迷ったくらいである。こんな駄作をこれだけ長く続けたのは、荒木飛呂彦が偉くなりすぎて編集者が口出しできなくなったからだろう。『ウルトラジャンプ』は『週刊少年ジャンプ』に比べて打ち切りの基準がゆるいようだ、と納得した*1

スタンドはルール系の捻った能力が多く、特定の条件で発動するものばかりである。約束をキーにしたカリフォルニア・キング・ベッドちゃん(東方大弥)。開く動作で現れて閉じる動作で消えるボーン・ディス・ウェイ(虹村京)。本体が標的に触れることで自動的に攻撃するアイ・アム・ア・ロック(八木山夜露)。そしてラスボスもこのルール系で、追跡してくる相手を「厄災」によって阻止する遠隔操作のスタンドになっている。ここまで来るとスタープラチナのような近距離パワー型はもういない。大半はルールとルールを対峙させて知恵の輪のように解く変則的なバトルになっている。

バトルで一番面白かったのが東方常敏とのクワガタバトルで、第4部のチンチロリンみたいな駆け引きが秀逸である。二番目がミラグロマンのエピソードで、荒木飛呂彦はこの手の奇妙な話を描かせたら抜群に上手い(クズの東方常秀が唯一活躍する話でもある)。一方、通常のスタンドバトルはどれもつまらなく、やはり能力を変則的にし過ぎたのが問題だと思う。そもそもスタンドバトルは第5部から下り坂で、部を重ねるごとに面白さが逓減していった。このシリーズは昔からの熱心なファンがついてるから、もはやファン向けに書いている節がある。それは過去作への言及が多いことからも明らかだろう。新規読者はほとんどアニメ経由ではなかろうか。

第8部は遠隔操作のスタンドがめちゃくちゃ強く、主人公らが自動追尾の攻撃に苦戦しているのが印象的である。敵の攻撃をかいくぐりつつ本体を直接叩かなければならない。ラスボスはその集大成だろう。相手を追跡することそのものが能力発動のトリガーになっているのがとんでもないチートで、そのチートに対抗するために主人公も意味不明なチート能力を身に着けている。そして、それは震災を乗り越える暗喩でもあった。敵が繰り出す「厄災」を「ゴー・ビヨンド」する。第7部までは時間と空間を最強の能力としていたのに、ここに来て急変化したのが興味深い。

後半における東方定助の目的は、新ロカカカの実でホリーの病気を治すことだった。ところが、結局それは叶わない。物語は一抹のやりきれなさが残っている。これは意図的というよりは、ストーリーの構成上できなかったのではないか。おそらく当初の構想からズレて破綻したのだろう。こういうのも連載漫画の宿命だと思う。

*1:これで思い出したのが『鬼滅の刃』で、この漫画は人気作であるにもかかわらず、下弦の鬼を一気にリストラして物語を短縮している。『週刊少年ジャンプ』ならではのシビアな判断だ。