海外文学読書録

書評と感想

渡辺一貴『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』(2023/日)

★★

フランスの画家モリス・ルグランが描いた黒い絵。これをきっかけに岸辺露伴高橋一生)と泉京香(飯豊まりえ)がパリのルーヴル美術館に行く。また、17歳のときの岸辺露伴(長尾謙杜)は祖母の旅館に下宿して漫画を描いていたが、そこで奈々瀬(木村文乃)という女と出会っていた。奈々瀬からは黒い絵のことを聞かされている。

原作は荒木飛呂彦の同名漫画【Amazon】。

良くも悪くもドラマの映画化という感じだった。つまり、映画にしては映像がしょぼいのである。外国でロケしてもその良さが出ていない。ヨーロッパ映画だったらルーヴル美術館をもっと味わい深く撮っただろうし、ハリウッド映画だったらもっとゴージャスに撮っただろう。本作の映像は国内ロケと変わらないくらい平板だった。実は全部CGでしたと言われても違和感がない。何のための外国ロケだったのだろう、と首を捻った。

ルーヴル美術館に行きながらも物語はドメスティックで、ドラマと同じく日本の怪異が根本にある。そこはブレてなくて感心した。御神木の樹液で描いた黒い絵や山村仁左右衛門の怨念など、江戸時代のエピソードを映像できっちり再現している。本作はそこにモリス・ルグランの贋作ストーリーが交錯していて、いつもより複雑な構成になっていた。贋作と真作をすり替える犯罪集団なんてあまりリアリティがないが、岸辺露伴をパリに誘う動機づけとして必要だったのだろう。ただ、総じてパリのエピソードは茶番にしか見えなかった。倉庫に入った一行が山村の絵を見て幻覚に襲われる。その様子がB級ホラーみたいでいまいちそそられない。倉庫のシークエンスで良かったのは岸辺露伴が能力を使って窮地を脱するところくらいで、ここだけ『ジョジョ』の片鱗が見て取れた。やはりピンチで煌めく機転こそがこのシリーズの醍醐味だろう。それ以外はかったるい茶番にしか見えなかった。

本作では岸辺露伴が探偵役を務めている。ヘブンズ・ドアーで相手の素性を読めるのでそこは便利だと思った。理論的には出会う人すべてを本にしていけば推理は必要ないのだから(そうすれば、犯罪集団の件はもっと早く見抜けた)。だから能力は濫用しない。ここぞというときだけ使っている。終盤、奈々瀬の過去を読んで自分のルーツを知るところはちょっとしたサプライズだった。

回想で17歳のときの岸辺露伴が出てくる。演じているのはなにわ男子の長尾謙杜。当時の岸辺露伴はデビューしたばかりの漫画家で編集者から注文をつけられている。今と違ってあまりすれていない。少年らしい無垢な部分が目立っている。奈々瀬との交流はいくぶん甘酸っぱい感じで意外だ。当初はこの回想シーンが長く感じたが、実は奈々瀬が思いのほか重要な役割を担っていたので、後から振り返ると必然だったと思える。この奈々瀬は『ジョジョ』4部の杉本鈴美と重なるところがある。地図にない小道にいるあの人。岸辺露伴はつくづく年上の女と縁が深い。

このシリーズは映画向けの素材ではないことが分かった。映像はしょぼいし、2時間の長尺はかなりだるい。ただ、ドラマは面白いので継続して作ってほしいものである。

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