海外文学読書録

書評と感想

『モザイクジャパン』(2014)

★★

常末理市(永山絢斗)が東京の証券会社をクビになって故郷に帰る。故郷はAV産業の町になっていた。住人はみな地元のAV企業GALAXYZで働いている。理市はそこの社長・九井良明(高橋一生)に採用されるのだった。FX証券部門で働く理市は総務部の木内桃子(ハマカワフミエ)と知り合いになる。桃子はGALAXYZの企画単体女優でもあった。

全5話。坂元裕二脚本。

相変わらずセリフ回しが洒落臭いが、世間ではこの洒落臭いところが受けているので僕の感覚がおかしいのだろう。確かに頭がいいし才気があるのも伝わってくる。でも、それをこれ見よがしにひけらかすところにうんざりする。テレビ屋によくある目立ちたがり気質が表れているというか。日本を代表する脚本家・坂元裕二。気の利いたセリフを書かせたらピカイチであるが、生身の人間がそれを喋ると何か違うぞとなる。我々は日常生活で名言を吐いたりしないし、気の利いた発言もしない。だからそれらを矢継ぎ早に繰り出されると脚本家の言語能力を自慢されているような気分になる。この能力も『花束みたいな恋をした』みたいなサブカル映画でははまるが、テレビドラマだとくどく感じる。洒落臭い、とにかく洒落臭いのだ。根本的にテレビのノリが嫌いな僕はそれを作っているテレビ屋も嫌いである。存在の耐えられない軽さ。テレビ屋がこれを乗り越えるのは難しい。

AV業界を足掛かりに日本社会が巨大なモザイクで覆われていることを示している。そこは良かった。性行為を映した動画は法律で販売が禁止されているのに販売されている。売春も法律で禁止されているのにソープランドがある。賭博も法律で禁止されているのにパチンコがある。AVはモザイク、ソープランドは疑似恋愛、パチンコは三店方式とそれぞれ抜け道が用意されているのだ。日本の法律には巨大なグレーゾーンがあり、我々はその中で閾値を越えないように生活している。AVもソープランドもパチンコも実質的には法律違反なのに建前では法律違反ではない。このグレーゾーンが官僚の天下りシステムによって利権と化している。政治家も官僚も国民の欲望を管理することで公然と利益を得ているのだ。成熟した現代社会でこのような野蛮な慣習が常態化しているのである。これって確かに変だ。およそ先進国とは思えない。文明のレベルとしては江戸時代と同等ではないか。本作はモザイクをキーワードにして美しい国の伝統を炙り出している。

AV女優をどう位置づけるか、という部分も注目点だ。立派な職業人として見るのか、あるいは性的搾取の被害者として見るのか。僕も男なのでAVをよく鑑賞するが、できれば前者であってほしいと思っていた。彼女たちは自発的に誇りを持って仕事をしているのだ、と。ところが、実際はそうではない。本質的には性的搾取の被害者である。自分が被害者であることを認めたくないばかりに立派な職業人の振りをしているのだ。かつて「風俗は貧困女性のセーフティーネット」という言説があったが、今ではそれを信じる者などいないだろう。彼女たちは男性の欲望を満たす必要悪として、手っ取り早く大金を稼ぐ手段として、グレーゾーンの真っ只中に浮遊している。我々は多かれ少なかれ資本主義の奴隷であるが、搾取の割合が比較的高いのが性産業なのだ。ただ、搾取的だからと言ってなくなったら困る。資本主義は人々の欲望で回っているのだから。男の性欲もそのひとつである。社会正義だけでこの世は成り立たない。「水清ければ魚棲まず」とはよく言ったもので、人間は適度に汚れた社会でないと生きていけない。

俳優だと高橋一生とハマカワフミエが素晴らしかった。高橋一生は変人を演じさせたら右に出る者はいない。思えば、『岸辺露伴は動かない』の岸辺露伴役もはまり役だった。また、ハマカワフミエは自己肯定感の低いAV女優を演じている。覇気のない目をしていたのが印象的だった。