海外文学読書録

書評と感想

ノーマン・ジュイソン『華麗なる賭け』(1968/米)

★★★

実業家のトーマス・クラウン(スティーブ・マックイーン)には裏の顔があった。彼は銀行強盗の黒幕として犯罪者たちを指揮していたのである。クラウンは部下にボストンの銀行を襲撃させ、260万ドルの現金を手に入れる。そこへ保険調査員のビッキー(フェイ・ダナウェイ)が登場。彼女はクラウンに目星をつけて接近する。

犯罪はあくまできっかけに過ぎなくて、本番はクラウンとビッキーのロマンスになるのだろう。お互い敵同士だと分かってるのに、それでも火遊びがやめられない。特にビッキーは敵の懐に入ったつもりだったけれど、実は本気で愛していた。だからラストで涙を流している。

クラウン役のスティーブ・マックイーンは38歳、ビッキー役のフェイ・ダナウェイは27歳である。チェスのシーンで両者の顔がアップになるが、親子くらいの年齢差があるように見えた。特にスティーブ・マックイーンは肌が汚くて実年齢よりも一回り上という感じだ。遠目だとスタイリッシュだが、アップにするときつい。一方、フェイ・ダナウェイは肌のキメが細かく、年齢より若く見える。男は多少老けていてもロマンスの主役になれるということだ。確かに、金持ちのイケオジVSミニスカ美女という組み合わせには夢がある。男の価値は金、女の価値は若さ。本作を観るとそのことを思い知らされる。

クラウンは事業が成功して大富豪だし、遊びもゴルフ、セスナ、ポロと色々やっている。それでも満たされないから道楽として犯罪に手を染めているのだ。だいたい銀行強盗といったら、恵まれない人たちが一獲千金を夢見て行うものだった。本作の場合、それを金持ちの道楽にまで昇華している。当時はそれがスタイリッシュだった。金に困ってないが刺激が欲しいから強盗する。この辺、犯罪に芸術性を見出したルパン三世を彷彿とさせる。

マルチ画面は今見ると一周回って新鮮であるが、一方で洒落臭いと思う。そんなに多用しなくても良かったのではないか。あと、道楽でやってる犯罪のわりに実行犯が拳銃で一般人を撃っている。いくら何でも可哀想ではないか。そして、ミシェル・ルグランの劇伴は申し分ないのだが、ノエル・ハリソンが歌っているメインテーマ(タイトルは「風のささやき」)が昔のムード歌謡みたいで時代を感じさせる。良くも悪くもレトロ映画という趣だった。

クラウンは黒幕として用意周到に事を進めているわりに、ビッキーにあっさり犯人だとバレているので、実は大して優秀じゃなかったのかもしれない。違法に手に入れた大金は処理が難しいということだろう。今だったら仮想通貨でマネーロンダリングできるが、当時はスイスの銀行に預けるしかなかった。だから足がついてしまう。

クラウンは証拠こそ掴ませてないが、捜査陣からは黒だと思われているので、あのまま逃げ切れるかは疑問である。そのうち指名手配されるのではないか。そういう意味ではすっきりしないラストだった。