海外文学読書録

書評と感想

板垣恵介『刃牙道』(2014-2018)

★★★

クローン技術と降霊術によって宮本武蔵が現世に復活。格闘家たちが彼に挑む。その過程で中国拳法の雄・烈海王が斬殺されてしまうのだった。一方、古武術を修める本部以蔵は、宮本武蔵から格闘家たちを「守護りたい」と思うようになり、独自に行動する。

全22巻。

『範馬刃牙』の続編。

無茶苦茶な内容だけど、相変わらず最後まで読ませる力はある。もちろん、全盛期ほどの面白さはない。荒木飛呂彦が『ジョジョ』しか描けなくなったように、板垣恵介は『バキ』しか描けなくなったのだろう。本作は過去の遺産というか、才能の絞りカスで描いているような感じだった。

宮本武蔵の強さを引き立てるためとはいえ、人気キャラの烈海王を死なせたのは意外である。ただ、武器を使える格闘家が少ないため、彼に白羽の矢が立ったのも必然なのだろう。宮本武蔵は剣豪なのでやはり真剣を使わせたい。そして、剣豪に真剣を使わせたらただでは済まないことを表現したい。その帰結として烈海王が殺されたのだ。この判断を肯定すべきかどうかは迷うところである。しかし、一方で本作にはさほど思い入れがないので、今となってはどうでもいいかなと思う。愚地独歩や渋川剛気など、魅力的なキャラはたくさんいるし。新キャラには期待できないものの、まだまだ過去の遺産で溢れている。

もうひとつ意外なことに、本作では本部以蔵が大活躍する。それまで弱キャラで名の通っていた本部が覚醒したのだ。彼が武芸百般を修めた実戦家だなんて随分と大きく出たもので、武器を使って格闘家たち(その中には範馬勇次郎も含まれる)を次々と翻弄し、あまつさえ宮本武蔵に勝利するのは大きなサプライズだった。本作のMVPは間違いなく本部だろう。彼の覚醒には賛否両論あるにしても、死に体だったキャラを再生させた功績は認めるべきだ*1。本部にこんな使いみちがあるとは予想外だった。

宮本武蔵は確かに強いのだけど、範馬勇次郎ほどの絶望感はなく、殴られたら普通にダメージを受けているところは見ていて心配になるほどだった。攻撃力は高い反面、防御力は人並みである。そして、彼のエア斬撃は茶番もいいところで、みんなして斬られたつもりになっているのは滑稽だった。これはつまり、真剣で斬ったら確実に死ぬので、想像上の刀で斬っているということである。モブの警察官はいくらでも輪切りにできる。しかし、格闘家たちを同じ目に遭わせるわけにはいかない。今後もシリーズは続いていくのだから。エア斬撃とはその葛藤が生んだ奇跡の技である。

真剣を用いた勝負について。ピクルの肉が斬れないのは分かるけれど、花山薫の肉が斬れないのは理屈に合わないような気がした。

*1:それにしても、ガイアが本部以蔵の舎弟みたいな扱いなのには違和感があった。