海外文学読書録

書評と感想

野村孝『拳銃は俺のパスポート』(1967/日)

★★★★

殺し屋の上村(宍戸錠)が依頼を受け、島津組の組長(嵐寛寿郎)を狙撃して暗殺する。上村は相棒の塩崎(ジェリー藤尾)と飛行機で高飛びする予定だったが、敵に待ち伏せされて港町の宿屋に逃げ込むことに。2人は給仕の美奈(小林千登勢)に匿われるのだった。その後、依頼主と島津組が結託して上村たちを追い詰める。

ハードボイルド映画。とにかく主演の宍戸錠が格好いい。喋り方や佇まい、苦み走った表情など、いかにも映画スターという趣だった。こういう渋いおじさんは現代ではなかなかお目にかかれないから貴重だ。映画会社によるスターシステムとは要はジャニーズ事務所みたいなもので、良質なタレントをコンスタントに供給するという意味で理に適っている。昔の日本映画は組織的な商業システムによって支えられていたことが分かった。

映像的にはハリウッド映画みたいな密度はないものの、カット割りがよく出来ていてそこは感心した。要所要所で劇伴を流して叙情的な雰囲気を出すところはマカロニ・ウェスタンのようで、これがもっとも効果をあげていたのが終盤の決闘シーンだった。このガンアクションがまた素晴らしい。拳銃を放り出して走りながら散弾銃を撃ち、弾がなくなったところで散弾銃を捨て、その場にあった拳銃を拾ってまた射撃する。攻防一体となったガンアクションに見惚れた。

序盤で上村が敵の殺し屋に狙われるシーンもいい。敵は乗用車の陰に隠れて射撃してくるのだが、そこを上村はトラックで突っ込んで車ごと敵を海に葬り去る。このあっけない幕切れには思わず笑ってしまった。というのも、敵はいかにも手強そうな雰囲気を醸し出していたのだ。これはギリギリの撃ち合いになるだろうと予感していた。ところが、蓋を開けたら上村は銃を使わずに敵を始末している。こういう人を食った展開もまた面白い。

宿の女将がまたいい感じのおばちゃんでインパクトが大きかった。演じているのは武智豊子。本当に宿を経営しているかのような貫禄がある。宍戸錠を始めとした主要人物はいかにも映画的な浮いた存在だったが、この武智はそこら辺にいそうなほどのリアリティがあった。地に足のついたおばちゃんである。

見ていて驚いたのは、食堂に集まった労働者たちが給仕の美奈にセクハラしまくっているところだ。ナンパしたりケツを触ったりやりたい放題である。美奈は手慣れた素振りで彼らをあしらっていた……。この光景がいかにも昭和で、ハラスメントとは最近の概念なのだということが分かる。正直、見ていて居心地が悪かった。

本作は上質のハードボイルド映画でとにかく宍戸錠が格好良かった。宍戸錠は元々コメディが得意な俳優なのだという。渡り鳥シリーズの敵役でだいぶ評価されていたようだ。また、貫禄を出すために豊頬手術をしたことでも有名である。彼の出演作品をもっと見てみたい。